【水田に映る近鉄列車と夕空=名張市矢川で(2025年5月に松本さん撮影)】

 三重県の伊賀盆地に、まもなく“鏡”が現れる。田植えを前に水が張られた水田は、空の色や雲、人々の日常を運ぶ列車の姿を映し出す。写真愛好家たちが「水鏡」と呼ぶこの光景は例年、4月下旬から5月にかけての限られた期間だけ見られる季節の贈り物だ。

 伊賀鉄道の線路沿いで風の弱い朝、「忍者列車」が近づくと、水面にもう一つの世界が広がる。青やピンク、緑の車体が、上下逆さまに滑るように走り抜ける。踏切の音とともに現れる列車が、水面にも同時に現れる光景は、この時期ならではだ。

早朝に水田のそばを走る忍者列車=伊賀市上林で(2023年4月にYOU記者撮影)

 近鉄沿線などでも、列車の鮮やかな色彩が水面に映える。風の有無や水面の状態によって表情を変えるため、同じ場所でも時間帯や日によって異なる風景が楽しめる。田植えが始まれば、“鏡”はやがて緑へと変わっていく。

松本さん

 昨年、近鉄沿線の水鏡を撮影した地元の写真愛好家、松本順子さん(73)は「風が止んだ時にだけ、水面が奇麗な鏡になる。朝や夕方は風が収まりやすく、乗客の姿まで映ることもある」と話す。苗も写り込む田植え直後のタイミングが好きだという。

 イラン情勢を受けたガソリン価格の高騰などで、ゴールデンウィークの遠出を控える動きもあるが、身近な場所にも今だけの美しい季節の風景は広がっている。

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