【カウンターで乾杯する来店客=伊賀市千歳で】

ガソリンスタンドの「これから」

 「ガソリン入れに行こか」―。酒を飲みに行くことをこう表現する人もいるが、三重県伊賀市千歳の国道25号沿いに、夜になると缶詰ダイニングバーとして営業し、酒を飲むことができる給油所がある。もちろん飲酒運転は厳禁だ。

箱林さん=同

 祖父の代から続く給油所を経営する箱林穂高さん(44)は、無機質だった店内をおしゃれにしようと、数年前からDIYで店内の改装を進めていた。ある時、小池百合子東京都知事が「新車販売を2030年までに脱ガソリン化する」との方針を打ち出すニュースを目にした。「なんや、あと10年もチャンスくれるんか」。

 脱炭素化で将来的にガソリン需要の低下が見込まれ、コロナ禍の外出自粛でも打撃を受ける中、「これからのガソリンスタンドに何ができるのか」と考えを巡らせた。真っ先に目を付けたのは、災害時に果たす機能だ。

険しかった開業まで

 「自家発電機があり、一時避難所になる」「店内に缶詰を置けば非常食になる」「有事に活用してもらうには普段からのPRが必要だ」「缶詰には酒が合う」「給油所の営業時間外にダイニングバーとして営業し、缶詰料理と酒を提供する店にしよう」。アイデアは次々にあふれ出し、箱林さんは構想実現に向けて動き出した。ところが、開業までの道のりは険しかった。

 消防も警察も「ガソリンスタンドが酒を出すなんて、常識的に考えられない」などと初めのうちは難色を示したという。箱林さんは「地域の防災拠点としての役割を知ってもらう一環だ」と繰り返し説得。風営法の対象にならない店舗であることを条件に、ようやく開業が認められた。

夫婦2人で切り盛り

 ダイニングバー「ハコバ」は、昨年7月にオープン。現在は毎週木、金、土曜日の週3回、営業時間外の給油所に明かりがともる。妻の比佐さんと2人で切り盛りし、ビールやワインなどの酒類、缶詰を利用したさまざまな料理を提供する。消防法の規制でスタンド内は裸火が厳禁のため、加熱はIH調理器を使用している。

 箱林さんは「こんなガソリンスタンドは、全国どこにもない。始めてから、いろんな方と話ができて本当に楽しい。地域を元気にする場所にしていきたい」と笑顔を見せる。4月には給油所の休業日を利用して食事や音楽を楽しむイベント「ハコバスタ」も開催し、盛況だった。次は11月に計画中だといい、箱林さんの構想はまだまだ膨らんでいる。

ダイニングバー営業中の店舗外観=同

2022年6月25日付822号17面から

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