行動科学とマーケティング

がん検診の認知度は上がっているものの、受診率向上につながらない-。そんな現状を打開しようと、行動科学の知見とソーシャルマーケティングの手法を活用し、がん検診受診率向上事業を推進する企業がある。株式会社キャンサースキャン(東京都品川区)だ。今回は、人の考えや行動に変革をもたらす手法などについて、同社代表取締役社長の福吉潤さん=写真=に話を聞く。

関心ない人に関心を

-受診率向上事業を始めたのはなぜですか。

福吉さん 私は以前、P&Gで洗剤のマーケティングをしていました。マーケティングとは、関心のない人に関心を持ってもらうというものです。でも、世の中には洗剤の銘柄よりもっと普及しなくてはいけないものがあるのでは、と考え始めました。その後ハーバードで学んだ時、予防医療の研究者と出会い、日本人のがん死亡率が高まっていること、がん検診で早期に見つければ助かること、それなのに受診率が低いこと、を教わりました。そこで、がん検診もマーケティングをすれば受ける人が増えるのではないかと気づいたのです。

-「関心のない人に関心をもってもらう」手法を取り入れたのですね。

福吉さん ピンクリボン運動などで意識は高まっているのに受診率が伴わないのは、人は知っているからといって行動に移すわけではないからです。そこで人の行動をいかに変えるのか。ポイントは、3つあります。疾患の重大性や検診の意義を理解する「意識の向上」、費用、距離、心理的ハードルなどを取り除く「障害の除去」、そして自覚症状のない人が検査を受ける「きっかけの提供」です。

全国で結果出したい

-具体的にはどのようなものですか。

福吉さん がん検診への知識、理解を深めることが「意識の向上」ですが、重要だと分かっていても行動に移さない場合があります。例えば、乳がん検診について、少ない費用で受けられることだけ書かれていたら、「安かろう悪かろう」というイメージを持たれかねません。これが「障害」です。ここに、マンモグラフィ検診は精度の高い検診で高額だが、自治体から補助が出るため、少しの負担で受けられる旨が書かれていたらどうでしょう。「障害」は取り除かれます。

-確かにこれまで、確かな検診であることや、自治体の費用負担について触れることは少なかったかもしれません。受けていない人に検診を勧める時にもそうしたことを伝えるのは大事ですね。

福吉さん そのような障害はいろいろあります。ある自治体の子宮頸けいがん検診の申し込み方法は、往復はがきでした。対象者が20歳以上と若いのに往復はがきとは……。ネットで申し込む方法に変えただけで、受診率は大きく上がりました。
「きっかけの提供」は、例えば、検診の同時受診があります。女性だったら、乳がん、子宮がん検診は受けているのに大腸がん検診は受けていないというケースです。大腸がん検診は便検査なのですから、乳がんや子宮がん検診の時に、大腸がん検診のキットを渡せばいい。仕組みに工夫し「きっかけ」を作れば受診率は上がります。受ける側の立場になって仕組みを見直すということですが、自治体もその方向に、だんだん変わってきていると思います。

-私たちも自治体からの情報をしっかり受け止めたいです。最後に、読者へのメッセージをお願いします。

福吉さん がんは早期に発見すれば治る病気となりました。検診の精度も高くなってきています。防げる時代であれば、検診を受けるメリットが大いにあるということをお伝えしたいです。私たちもこの事業を続け、全国で結果を出していきたいと考えています。

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福吉潤さんプロフィール
 慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、P&Gにてマーケティング職に従事。ハーバードビジネススクールでMBAを取得後、同スクールの研究員を経て、株式会社キャンサースキャンを創業。東京都内を始め全国の自治体を支援し、受診率を大幅に向上させた事例など、多くの実績がある。

伊賀タウン情報YOU 2018年7月後半(728)号」より