【甑(こしき)から蒸し米を取り出す高倉さん=名張市赤目町柏原で】

好きなこと、仕事に

 三重県名張市富貴ケ丘の高倉俊明さん(49)は、24年勤めた市職員から転身した新人蔵人。150年以上愛される伝統の味を手掛ける同市赤目町柏原の酒造会社「瀧自慢酒造」の一員として、日本酒造りに情熱を注いでいる。

自ら仕込んだ日本酒を手にする高倉さん

 大学で社会学を学び、1998年に同市へ入庁。30代の時、頻繁に参加していた観光振興セミナーで地域の文化に関心を持った。趣味の写真撮影で市内を巡り、観光地や伝統行事を被写体にシャッターを切ってきた。

 酒造りに興味を持ったのは、2015年に市内の酒蔵を見学したのがきっかけ。完成までの手間や秒単位の時間管理の話を蔵人から聞き、熱意に感動したという。以降、市内の各酒蔵に足を運んだり、本を読んだりして知識をつけた。

 昨年3月、同社ホームページで蔵人の募集を知った。悩みつつも、好きなことを仕事にできるチャンスと考え、家族にも意欲を理解してもらった。9月末に市役所を退職し、10月から蔵人の第一歩を踏み出した。

 同社では、高倉さんを含め9人の蔵人が酒造りに携わっている。10月末から仕込みが始まり、瓶詰めなどの工程を経て、12月下旬ごろに新酒ができる。

知識も力も身に

 仕事は早朝から始まり、ミーティングの後、洗った米を蒸し、手や放冷機で混ぜて冷ます。混ぜ方一つにしても考えることが多く、最初は慣れない作業や専門用語に苦労したが、ベテランの蔵人たちの丁寧な指導で徐々に作業効率が上がっていったという。

 知識だけでなく、力仕事をすることで筋力もついた。洗米する重さ約30キロの米袋を15袋以上、台車に移し替える作業も担当し、楽な運び方のこつもつかんだ。酒造りの仕事は「全員が連動して作業をするところに、良い緊張感がある」そう。苦労の末に自分で仕込んだ酒を初めて飲んだ瞬間は、感動とともに「ほっとした」と笑う。

 夏は出荷作業や配達が中心で、全国の試飲会に参加して見識を広げることも仕事の一つ。力仕事が少なくなるため、体力の維持にジムでトレーニングもするという。

 市職員の時に培った資料作りのスキルは今も生きているそうで、学んだ作業は後々見返せるようにまとめている。同社の杉本龍哉専務(29)は「1年目の人にも伝わりやすいマニュアルを作って、スムーズな作業のための環境づくりも頑張ってくれている。他の従業員ともすぐになじんで、仕事の内容もすぐに吸収する」と更なる活躍に期待を込める。

 高倉さんは「この1年で自分が覚えた作業はほんの一部。今後もできる仕事を増やして、良いお酒造りにつなげていきたい」と思いを語った。

2023年12月9日付857号1面から

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