立てた髪と志
モヒカン刈りに憧れた三重県伊賀市の高校生とその仲間が、モヒカンヘアで地域のごみ拾いをする様子を住民が目撃した。「見た目で人を判断しないで」との思いを込めた行動だが、その背景には何があったのか、YOUが取材した。
同市別府の私立愛農学園農業高で野菜栽培を学ぶ2年の木下大輔さん(16)は5月、米ロックバンド「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」(レッチリ)のライブDVDを見た。メンバーがモヒカン頭だったころの映像で、木下さんは「かっこいい。自分もあんな風になりたい」とまねする決心をした。
中央部分以外を刈り上げて寮の集会に参加すると、他の生徒たちはざわめき立ち、集会後には教員から大目玉を食らった。校則で「奇抜な髪形」が禁止されていたからだ。
教員たちはモヒカン刈りをやめるよう働き掛けたが、木下さんは校内の意見発表会でモヒカン刈りになった理由をスピーチ。「不良っぽいと言われるが、自分のことがどんどん好きになった」「世の中、見た目で判断されがちだが、互いの価値観を認め合うことが大切」「ごみ拾いをしたら印象が変わるのでは」などと堂々と主張し、他の生徒らの心を打った。クラス代表に選出され、全校生徒の前でも発表すると、参観に訪れた保護者たちからも「応援したい」との声が上がった。
教員間で議論に
モヒカンにこだわる木下さんの行動は、教員間で議論を巻き起こした。「やめさせた方がいい」「実習先の人に変な印象を与えてしまう」といった意見の一方、「奇抜な髪形とは何か」「本人の思いを押さえつけることが本当に良い教育か」といった意見も出た。泉川道子教頭(57)は「教育の在り方は今、過渡期にある。最終的には、無理に髪型を変えさせることはせず、本人と対話し続ける方針になった」と振り返る。
木下さんは11月上旬の学祭ではモヒカン刈りでステージに立ち、レッチリの曲をギターで演奏する夢をかなえた。学祭の振替休日には、発表で述べたごみ拾いを実行に移した。
活動には親しい仲間5人が加わり、うち3人は後で丸坊主になることを前提にモヒカン刈りになった。ごみ袋を手に青山町駅付近へと繰り出した6人は、道路や川沿いなどで5袋分のごみを集めた。活動を目にした住民からは「驚いたが、良いことだ」と称賛の声が複数、学校に届いた。
更に木下さんらは電車に乗って名張市へ買い物に行ったが、車内や街では斬新な髪形が悪目立ちしてしまった。「人の視線が痛かった」「名張でもごみ拾いすればよかった」と振り返る。
夢かなえ今は丸坊主
名張から帰った後、モヒカン頭だった4人は自ら頭を丸めた。木下さんは「友だちも気持ちを共有してくれてうれしかった。人に迷惑を掛けない範囲で自分の好きなことをして、自分を好きになるのは大事なことだと思う」と話した。