【赤目滝水族館の館長に就任予定の朝田さん=名張市赤目町長坂で】

赤目四十八滝渓谷保勝会 朝田光祐さん

 三重県名張市の赤目四十八滝の入り口にある日本サンショウウオセンター(赤目町長坂)が、4月20日に「赤目滝水族館」としてリニューアルオープンする。館長には22歳の朝田光祐さんが就任予定で、「オンリーワンの水族館」を目指し奔走している。

苦労して採集したタウナギが入る網を手に駆ける朝田さん=名張市赤目町星川で

 大阪府東大阪市出身で、幼いころからサッカーやピアノに打ち込んできた。はっきりと意思表示をする子どもだったという。

 生き物も好きで、田んぼに裸足で入ったり、カエルや蛇を素手で捕まえたりしていた。捕獲した生き物を家に持ち帰ると、厳しい父親から「飼育はそんな簡単にやっていいことじゃない」と叱られ、しぶしぶ自然界に戻していたという。

 中学1年の時、よく聞いていた洋楽の影響で「海外に行きたい」と考えた。話を聞いた両親は「獅子の子落とし」の格言のように、朝田さんを単身で海外留学させることを決断。夏にはニュージーランド南島のクライストチャーチボーイズハイスクールに入学することになった。

 初めは英語が話せずに不安で泣いていた朝田さんだが、「かっこ悪いことをしたくない」との思いから必死に勉強。ホストファミリーの家や寮での暮らしを経て、次第に現地の生活に慣れていった。

 学校にはパイプオルガンがあり、ピアノ経験を生かして演奏技術を習得。ラグビーのニュージーランド代表選手を輩出している名門校でもあり、朝田さんも巨漢たちの間をかいくぐってボールを追い掛けた。

 生き物への興味も尽きず、「飛べない鳥」として知られる国鳥のキウイや、数種類のペンギンなどを調査して島を巡った。日本よりも進んだ野生動物保護の取り組みに、感銘を受けたという。

 17歳の時にニュージーランドでの暮らしを終え、日本に帰国。通信制高校で学びながら音楽経験を生かして芸能活動を展開したが、コロナ禍の直撃をきっかけに「やっぱり生き物が好き」と気付いたという。

小さなタウナギを観察する朝田さん

 19歳で大阪の動物飼育の専門学校に入学し、水生生物を本格的に学んだ。そこでサンショウウオを研究する講師と出会い、各地の調査に同行。宇陀市を訪れた時に、初めて野生のオオサンショウウオに出会ったという。

 その後、恩師を通じてNPO法人赤目四十八滝渓谷保勝会から日本サンショウウオセンターの飼育担当職員として誘いがあった。知らない土地からの話に初めは気が進まなかったという朝田さんだが、一昨年の冬に初めて渓谷を訪問し、美しい自然環境に魅了された。観光客は少なかったが、「やり方次第でもっと人が来る観光地になる」と直感し、就職することに決めたという。

サンショウウオセンター改装 他の両生類や魚類、爬虫類も

 市のアドバイザーで水族館プロデューサーの中村元さんに助言をもらい、昨秋から同センターの水族館化に向けた準備が本格スタート。朝田さんはその先頭に立って奔走し、改装後のコンテンツ作りやグッズ企画の構想も膨らませる。

赤目滝水族館で展示されるアマゴ

 新水族館では従来のオオサンショウウオに加え、アマゴなどの魚類や両生類、爬虫類も展示する。中でも朝田さんが、他の水族館で巣穴から顔を出す姿が人気のチンアナゴの代役にするのがタウナギだ。

 タウナギは蛇のような見た目の淡水魚で、チンアナゴとは科目も異なる。田や用水路などに生息し、畔に穴を開けてしまうとして厄介者扱いされる。朝田さんは地元事業者の協力を得て、4月上旬に地区の田んぼで採集。「展示の仕方次第でコアなファンを作れる」と自信を見せる。

 朝田さんは「水族館を作る仕事はやりがいしかない。人に恵まれ、流れに乗るようにここに来たが、人生は面白い」と話す。「渓谷を唯一無二の武器にして、訪れた人全員に喜んで頂ける場所にしていきたい」と力強く語った。

地元事業者に協力してもらいタウナギを探す朝田さん=名張市赤目町星川で

【関連記事】「赤目滝水族館」4月20日開業へ センター改装し渓谷の魅力発信 名張(https://www.iga-younet.co.jp/2024/02/27/88045/)

- Advertisement -