「患者さんへの診療とアドバイスの幅を広げたい」と、医療と縁遠い資格を含め国家資格だけでも10種類を取得しているのは、三重県の名張市立病院(百合が丘西1)の内科で総合診療科医として勤務する笹本浩平さん(43)だ。マルチな知識と多様な経験に基づいたコミュニケーション力で、医療の現場に立っている。
大阪府出身。幼いころから数学が好きで、進学した大阪府立大学では数学の研究に没頭、卒業後は予備校の講師を務めた。その後、「健康に特化して人を幸せにする」医師の仕事に魅せられ、医師になることを決意。30歳で京都府立医科大学医学部に入学した。
学生時代は細胞生理学を研究。授業で学んだ総合診療で「病気だけを治すのではなくケアも大事。人そのものを診る医療の大切さ」に気づいたという。だが、総合診療の勉強会が少なく、「ならば立ち上げよう」と、大阪大学の学生ら数人とともに大学の垣根を越えた「大阪どまんなか」という会を設立。全国から1000人を超える学生たちが学ぶ会に成長した。
36歳で卒業した2016年、福井県内の病院に勤務。知識や活動の幅を広げるために少しは医療関係の資格を取っていたが、多種にわたる資格を取り始めたのは、名張市立病院勤務となった翌年の19年から。「医学知識だけではうまくいかないこともある。いろんなことを知り、アドバイスの幅を広げたい」との思いからだった。
この数年に取得した資格は、電気設備の保安の監督ができる「第3種電気主任技術者」や「電気通信主任技術者」「2級ファイナンシャル・プランニング技能士」など医療の資格に限らず多岐にわたる。医師としての仕事のクオリティーを保ちながら空き時間を作り、独学で取得した。
また、19年には自身の体験を基に医療現場で役立つコミュニケーションなどの手法を書いた本「医学生・若手医師のための誰も教えてくれなかったノンテクニカルスキル」(金芳堂)も出版した。
「習得した知識は使わなければ意味がない。アグレッシブにアウトプットするのが大事」と笹本さん。「人の幸せ、笑いを共有する仕事である医師は天職」だといい「何事も心理的余裕が大事で、医療関係者だけじゃなく病院も盛り上げたい」と話した。
2023年4月22日付842号10面から