【赤目地区で今年収穫されたマツタケとブランドを示す札=名張市で】

 三重県名張市の特産「赤目松茸」の競り市が、今年からは開かれないことがわかった。市で取引するだけの入荷量が見込めず、料理店などでつくる赤目松茸仲買人組合は、高齢化なども理由に昨年のシーズン後に解散していた。長年親しまれてきた特産ブランドは、危機的な状況だ。

赤目松茸を巡る状況を語る長谷川さん=名張市で

 赤目松茸は同市の赤目地区を中心に採れ、香りや味が良いことで知られる。京阪神や地元の料理店向け、個人の贈答用などに、競り市に参加する仲買人を通じて出荷されてきた。

 20代で組合員となり、昨年の解散まで長年、組合長を務めていた長谷川正さん(91)によると、出荷量は1960年代後半ごろまでがピークで、年間の出荷量は1トンを超えていた。当時は競り市に毎日、かごに入った大量のマツタケが運び込まれ、「日が暮れても、電球をともして競りを続けた」と振り返る。マツタケ狩りツアーを開催し、広く観光客を迎え入れた時期もあったという。

 その後、気候の変化や従事者の減少、高齢化などで収穫量は著しく減っていった。「山方(やまかた)」と呼ばれる山の所有者や生産者などもかつては40人以上いたが、昨年時点で十数人に。マツタケの発生には山の管理も重要だが、収穫減と従事者減で管理が十分に行き届かなくなる悪循環に陥ったという。

 組合の事務局を務めていたJAいがふるさとによると、昨年は10月7日から29日までに計4回競り市を開催し、出荷量は計15・5キロ。前年の半分以下で、5年前と比べると4分の1以下だった。

 長谷川さんは「赤目のマツタケを保てなかった」と悔しさをにじませる。過去には収穫量の減少を食い止めようと、専門家と協力して人工的に胞子を撒くなどの試みを進めた時期もあったが、うまくいかなかったという。

 競り市の廃止により、赤目松茸の流通は今後、数少ない生産者と料理店などが個人間で取引する形にとどまる。一層、庶民の手の届かないものになりそうだ。

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