三重県伊賀市と芭蕉翁顕彰会は10月5日、芭蕉翁献詠俳句の特入選句を発表した。特選は71作品で、同月12日に開かれる芭蕉祭の式典会場で表彰する。

 応募総数は3万5785点で、昨年度より2928点少なかった。部門別では▼一般の部8708句(対前年度比1146句減)▼テーマの部1826句(同655句減)▼児童生徒の部2万1631句(1801句減)▼英語の部1690句(324増)▼連句154巻(26巻増)▼絵手紙919点(97点増)▼ポスター原画857点(82点減)だった。1989年度から募集を始めた英語の部は過去最多の投句数で、35か国から寄せられた。

 学校全体で意欲的に創作活動に取り組んだ「三重県知事賞」には、伊賀市立西柘植小学校(受賞3度目)と福岡県の古賀市立古賀東中学校(初受賞)が選ばれた。

 式典前日の11日午後1時30分からは「芭蕉祭記念講演会~歌枕俳枕講座」が同市上野丸之内のハイトピア伊賀5階多目的大研修室で開かれる。講師は著書「正岡子規伝 わが心世にしのこらば」(岩波書店)が今年度の文部科学大臣賞に選ばれた神奈川大名誉教授の復本一郎さん。演題は「芭蕉二百回忌における子規の旅」。事前予約制で、定員80人。参加無料。
 問い合わせは市教育委員会生涯学習課(0595・22・9679)へ。

 各部門の特選句は次の通り(敬称略)。

〈一般の部〉
【稲畑廣太郎選】
名水の音を馳走に夏座敷 (兵庫県西宮市、小林志乃)
水無月の森のせせらぎすくひをり (前橋市、新木ひろみ)
【井上弘美選】
時雨忌の暗き灯の寄る海の町 (新潟県柏崎市、水野宗子)
鞆鍛冶の船釘太き油照 (東京都文京区、市村和湖)
【宇多喜代子選】
小春日の真綿のやうな睡魔かな (埼玉県吉川市、人見正)
木の水の石の声聴く終戦日 (岐阜県大垣市、大西誠一)
【小川軽舟選】
全身で急ぐ毛虫の先に空 (四日市市、佐藤径)
古池の闇を揺がす牛蛙 (伊賀市、山中洋子)
【小澤實選】
冬空の青いちまいを遺書とする (奈良県桜井市、中佐代美)
ジョギングの男半裸やTシャツ提げ (東京都品川区、川又憲次郎)
【櫂未知子選】
まぶしさや初夏の風真帆にうけ (東京都大田区、佐瀬はま代)
筆文字の封書ふつくら酔芙蓉 (東京都板橋区、笠原みわ子)
【黒田杏子選】
芭蕉忌の人にやさしくなる心 (栃木県宇都宮市、半田真理)
古池や蛙飼はずに放しけり (東京都千代田区、マルティーナ・ディエゴ)
【坂口緑志選】
緑さす帷に透けて神衣織る (伊賀市、島井節)
裏盆の峡に木霊す盆太鼓 (紀北町、湊富美子)
【西村和子選】
雲の峰歩き続ける翁像 (堺市、合田マサル)
大阪のをんな足早近松忌 (京都府京田辺市、加藤草児)
【長谷川櫂選】
老ひはさて病来ぬ間の白団扇 (横浜市、越智淳子)
母の日や兵士一人に母ひとり (大阪府岸和田市、青木洋子)
【星野椿選】
水鳥を侍らせ虚子の湖中句碑 (伊賀市、森中幸枝)
滴りの一山寂と奥の院 (愛知県西尾市、蓮沼たけし)
【堀本裕樹選】
解体の梁に父の字身に入みぬ (福井県勝山市、中村佐代子)
しばらくはものみな光る夕立あと (伊勢市、久世伸子)
【正木ゆう子選】
一旦は零れ地上を巣立ちけり (伊賀市、久保善信)
捩花や吾子に逢ひたし昇りたし (宮崎県延岡市、河野正)
【三村純也選】
起きぬけに海を見行く帰省の子 (尾鷲市、湯浅桃代)
闇深く河鹿聞きゐる外湯かな (埼玉県久喜市、梅田ひろし)
【宮坂静生選】
おはぐろの瑠璃寂光を放ちけり (亀山市、岡田良子)
早苗田に影を置きゆく夜汽車かな (長野県岡谷市、宮澤羅夢)
【宮田正和選】
朝の日へけふの色解く仏桑花 (四日市市、佐藤径)
螢生る瀬音の闇を広げつつ (伊賀市、岡島千秋)

〈テーマの部 「晴」〉
【片山由美子選】
冬晴やみな丸顔の一家族 (長野県須坂市、宮部高典)
駅前に花売る車夕立晴 (東京都中央区、衣川由美)

〈英語の部〉
【河原地英武選・訳】
The swan family
having stayed longer this spring…
return to Russia
ためらひつ白鳥の群ロシアへと
(David McMurray、日本)

walking on and on
in the distance the summit
motionless
ひた歩く遠くの峰は身じろがず
(Marcellin Dallaire-Beaumont、ベルギー)

〈児童・生徒の部〉
【保育所(園)・幼稚園、小学1~3年=佐々木経子、下村哲朗、土井陽代、中西紀歩、福森志津子共選】
とどくかなそらにてをやるしゃぼんだま (伊賀市、睦保育園、福森希桜)
くさむらにほたるのおしりかくれてる (伊賀市、三田保育園、勝谷凜翔)
うみのなかもぐってみたらかにはっけん (伊賀市、中瀬城東保育園、タパ ミサン)
あおぞらにまけないあおのあさがおが (伊賀市立上野東小1年、川口心乃葉)
めだかさんぼくはがっこうやすみだよ (伊賀市立上野西小1年、飯澤倖央)
すなはまにあしあとのこるうみがめさん (伊賀市立府中小1年、栗林大樹)
みちじおにのみこまれそうしおひがり (伊賀市立上野東小2年、森岡奈穂)
はんかちであにとオバケになりきった (伊賀市立上野西小2年、稲濱優仁)
さわれないざりがに友とゆずり合い (伊賀市立上野西小2年、花谷奏空)
うずしおにすいこまれそう手すりもつ (伊賀市立府中小3年、稲岡明穂)
夏空へ空中さんぽゴンドラで (伊賀市立友生小3年、要謙蔵)
たきつぼに一歩近づき風が来る (京都市立紫明小3年、恒藤灯里)

【小学校4~6年=岡島千秋、西村八洲子、松村咲子、森岡秀美、山村勝子共選】
雷鳴や毛筆持つ手震えてる (伊賀市立上野東小4年、久田健人)
真夏日やほぼ赤色の日本地図 (伊賀市立上野北小4年、田中詩乃)
木のえだをだきしめているせみのから (伊賀市立友生小4年、本城皆幸)
夕涼みみの虫あんの丸い石 (伊賀市立上野東小5年、福森美陽)
リフティング夢中になって秋夕焼 (伊賀市立上野東小5年、西山誠剛)
とうろうをはまべに運び夏おしむ (伊賀市立西柘植小5年、中澤実佑)
夏の雲めがけて打つぞホームラン (伊賀市立上野西小6年、南野零偉)
大青ね始発電車の汽笛鳴る (伊賀市立柘植小6年、愛川遥希)
ディーゼル車青田の土手を走り過ぐ (伊賀市立西柘植小6年、山本聡介)

【中学校=坂石佳音、島井節、服部登紀子、東構東子、福山良子共選】
涼をとる父と並びて滝の前 (伊賀市立緑ヶ丘中1年、前澤赳)
サングラス反射し見える僕の街 (伊賀市立上野南中1年、廣岡蓮斗)
はじけたよともだちの笑みと水ふうせん (伊賀市立緑ヶ丘中1年、森井柚鈴菜)
合奏中休符のたびにせみの声 (伊賀市立緑ヶ丘中2年、岩井くるみ)
いつの間に家族増えてるヤモリかな (滋賀県甲賀市、MIHO美学院中等教育学校2年、佐藤くらら)
シャトルランの記録更新若葉風 (福岡県古賀市立古賀東中2年、濵﨑聖)
苧環や白線をふむストローク (伊賀市立緑ヶ丘中3年、岡田悠汰)
ウクレレの初セッションはひぐらしと (伊賀市立青山中3年、北村結菜)
風穴に吹く涼風とひびく声 (伊賀市立崇広中3年 、前田渓渡)

【高校=坂石佳音、島井節、服部登紀子、東構東子、福山良子共選】
逆光の俳聖殿へ秋の蝶 (三重県立四日市高校2年、粂内瑞生)
数学の問二が解けず五月闇 (三重県立紀南高校3年、﨑上野和音)
雲の峰崩し現る飛行船 (愛知県立旭丘高校3年、渡邉美愛)

〈連句の部〉
【小池正博、西田青沙、森川敬三共選】

半歌仙『頓て死ぬ』の巻 徳島県 徳島県連句協会
                梅村 光明 捌

頓て死ぬけしきは見えず蝉の声   芭蕉翁
 開き切つたる古池の蓮       西條 裕子
愛くるしマトリョーシカを手遊びに  梅村 光明
 チーズフォンデュの卓の賑はひ   二橋 満璃
もの想ひひとり耽ければ傾く月       裕子
 烽火代はりの秋刀魚焼く煙        光明
牧閉ざす馬柵遠くまでなだらかに      満璃
 逢へぬ日続き募るいとしさ        裕子
女子会のすぐ盛上がる恋懺悔        光明
 ぐうたら亭主まづは槍玉         満璃
議員席スマホ居眠りここかしこ       裕子
 熱きおでんのコント大受け        光明
月翳り名物和尚しはぶかん         満璃
 酒場へ降りる螺旋階段          裕子
やり投げの記録を伸ばし初メダル      光明
 海の青さに染まる麗らか         満璃
補陀落を花の都にふと重ね         光明
 スカイツリーを包む淡雪         裕子
  
   令和四年七月二十四日 満尾 渭東コミセン

〈絵手紙の部〉
【森田満枝、福北辨選】
(石尾真希子、富山県滑川市)

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