【女性が閉じ込められたトイレ=名張市で(2022年8月22日午後2時13分撮影)】

 三重県名張市の住宅街で8月中旬、自宅トイレのドアノブが壊れ、独り暮らしの女性(86)が閉じ込められるトラブルが発生。この日、市内の最高気温は34度。女性は助けを求める声を聞いた通りがかりの知人によって約15時間後に無事救出された。

 女性宅のトイレは木製開き戸。15日午後2時ごろ、ノブ部分が突然外れ、開かなくなった。押したり蹴ったりしても、びくともしなかったという。

 広さは幅約0・8メートル、奥行き約1・3メートル。小窓には防犯目的の面格子が設置され、自力での脱出は無理だった。普段は携帯電話をトイレに持ち込んでいたが、この時は忘れてしまっていた。

 「助けてください」。手洗い用の水でのどの渇きを潤しながら、近隣住民の名前を数えきれないほど呼び続けたが、気付く人はいなかった。服やエプロンは汗だくになった。

 便座に座ったり、床に座って足を伸ばしたりと、姿勢を変えながら待ち続けたが、助けは深夜になっても来なかった。「神も仏もない」。壁にもたれると、涙がぽろぽろ流れた。

 翌明け方、新聞配達員が女性宅まで来たが、助けを求める声はバイクの音にかき消されてしまった。そして、午前5時ごろ、機関紙を配る知人女性が近くを通りかかり、女性の声に気付いた。知人は鍵が開いていた勝手口から家に入り、マイナスドライバーでトイレのドアを開けた。

 女性は「人生これで終わりかと思った。戦前生まれでも、これほどの恐怖を感じたことはなかった」と振り返る。20年ほど前に交換していたノブは、最近は不具合があったといい、「油断だった。専門の人に早く修理をお願いしておけばよかった」と悔やむ。その後は、ドアが閉まらないようにしながらトイレを使っているという。

トイレ閉じ込め事案 名張で今年出動2件

 市消防本部によると、救助に出動したトイレでの閉じ込め事案は、市内で2020年と21年に各1件、22年は8月21日までに2件発生している。

 総務省消防庁の担当者によると、トイレでの閉じ込めを含む「建物等による事故」の件数は全国的に伸びており、高齢化や独居高齢者の増加が要因と推測されるという。また、家庭のトイレで閉じ込めが発生した場合、公共トイレよりも救出までにかかる平均的な時間は長くなる傾向だという。

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