【修復を終え設置された五輪塔を見上げる矢持住職=名張市赤目町丈六で】

 三重県名張市の丈六寺(赤目町丈六)に残る鎌倉時代作の市指定有形文化財「石造五輪塔」の半年に及ぶ修復が終わり、同寺で4月11日、元の場所への設置作業があった。修復前は主に3か所の欠損があったが、同質の石材で補填されるなどし、建立当時の堂々とした姿がよみがえった。

修復前の五輪塔(2020年10月3日撮影)

 東大寺の初代別当・良弁僧正の供養塔と伝わる同寺の五輪塔は、「正応四(1291)年」の銘があることから市内最古とされている。欠損や全体のひび割れなど劣化が顕著で、地震などで倒壊する恐れがあった。更に、江戸時代に移設されたとみられ、各部分のぼん字が本来の向きと変わってしまっていた。

 五輪塔を建立当時の姿に戻したいと願う矢持宝裕住職(54)は、市の補助金交付が決まったのを機に、修復の指導を奈良県大和郡山市文化財保存活用係主任の山川均さん(59)ら、施工を名張市桔梗が丘5の石材会社社長、谷本雅一さん(44)に依頼。修復前の形状をレーザーによる立体測量で記録し、補填する石材などは鎌倉期と同じ鉄製ののみを使って手彫りするなどして、昨年10月から修復を進めていた。

 同寺の五輪塔は、過去の移設時に本来の台座が失われていると考えられることから、今回の修復に合わせて「反花(かえりばな)座」と呼ばれる台座を新設。地中には奉納物を納める素焼きの大甕(おおがめ)を埋設し、最下部の地輪の側面にある穴から経などを奉納できるよう整えることにした。

 反花座は奈良県天理市の長岳寺の五輪塔を参考に谷本さんが、大甕は愛知県常滑市の常滑焼の伝統工芸士が、いずれも鎌倉期のものを再現した。

 五輪塔設置を前に大甕が地中に埋められ、矢持住職自ら仏舎利と良弁僧正ゆかりの硯を奉納。その後、谷本さんらがクレーンを使って反花座の中央にあけた穴を大甕の口に合わせるように設置し、その上に五輪塔の各部のぼん字が正しい方向に向くよう、積み上げた。

 山川さんは「今回の修復は、文化財としてだけではなく、生きた宗教的モニュメントとして再生したといえる」と評価。矢持住職は「建立された当時の姿に戻すことが一番の願いだった。諸先生方や、名張のすばらしい石工さんと巡り合えた仏縁に感謝したい」と語った。

 歴代住職の墓所改修事業の完了と合わせ、10月ごろに落慶法要を営む予定。修復事業の寄進者は、般若心経の漢字を矢持住職が一字ずつ白い石に記した「一字一石経」を五輪塔に奉納することができる。