【(左)発行した一石六地蔵の拓本集を手にする谷戸さん(右)写真や解説が書かれた拓本集=名張市鴻之台1で】

 1つの石に6体の地蔵を彫った「一石六地蔵」を記録に残そうと、元小学校校長で三重県名張市文化財調査会委員の谷戸実さん(64)が、拓本と解説をまとめた「伊賀地域 石の六地蔵拓本集」を自費出版した。

 六地蔵は仏教思想と結びつき、死後の人々を地獄道など六道の苦しみから救うとされる。1つの石に1体ずつ彫った地蔵もあるが、伊賀地域では1つの石に6体並ぶ地蔵が多いという。

 谷戸さんは、同市の石造物調査に同行したのをきっかけに、六地蔵に興味を持ち、伊賀地域で石仏の拓本集を発行した市田進一さんの協力を得て、2018年10月から調査を開始。翌年1月からは、長年石仏の研究をしている今西正己さんを加えて、毎週調査に出掛け、隣接する奈良や美杉方面にまで活動範囲を広げた。

 拓本作業は湿らせた和紙を地蔵に貼り付け、タンポに墨をつけて上からたたき、形を写し取る。手入れされていない地蔵は、石を磨き、苔を取り除くところから始めるそうで、1体に2時間近くかかるという。

 谷戸さんによると、六地蔵が作られたのは大半が16世紀後半から17世紀前半まで。墓地の入り口に設置されているものが多く、年号が刻まれているものもあるそうだ。

 拓本集はA4判172ページで、伊賀地域の100体と周辺地域の28体を収録。拓本とともに特徴などの解説も載せた。販売はしておらず、伊賀、名張両市の図書館などに献本した。

 谷戸さんは「伊賀地域の人々の信仰の足跡として、次世代に語り継ぐ一つの資料になることを願っています」と話していた。

2021年2月27日付790号17面から

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