タンク型の荷台を取り付けた貨車「タンク車」は、ガソリンや灯油などを運ぶためにJR貨物が使用している。伊賀市にある、大正、昭和、平成、令和と4つの時代にわたって“現役”を続けているものが、全国の鉄道愛好家から熱い視線を集めている。【軽油の入ったタンク車に上がる藤室さん=伊賀市才良で】
廃棄寸前で譲り受け 軽油の貯蔵に使用
このタンク車は、ガソリンスタンドを営む藤室商店(同市才良)で、軽油の貯蔵用として使用されているもの。直径は約2メートル、長さは約7・8メートルだ。
同商店を経営する藤室伸一さん(63)によると、1965年に名阪国道が開通するまで、JR伊賀上野駅に運ばれてきたガソリンをドラム缶に積み替えてトラックで運んでいた。国道開通後、鉄道での輸送をトラックに切り替えた時、「このタンク貨車は50年くらい使ったので廃棄する」と聞いた藤室さんの父親が譲ってもらったそう。
当時小学生だった藤室さんも記憶に残っているといい、伊賀鉄道の市部踏切の電線に触れるのではないかと、運搬車のタイヤの空気を抜いて低くしたという逸話も残っている。
製造元「大事に使って」
20年ほど前、伊賀鉄道の車窓から偶然タンク車を目にした鉄道愛好家が「写真を撮らせてほしい」と、歓喜して訪ねてきた。雑誌に投稿された写真が反響を呼び、以来、全国から愛好家が撮影に訪れるようになったという。
8年ほど前には「インターネットに投稿された写真を見つけた」と、製造元・日本車輌製造の社員たちが図面を持って来訪。溶接する現在の製造方法とは異なり、「リベット」を用いた昔の手法で、1915(大正4)年に製造されたものと判明した。他は解体されているため、現存する最後の車両だといい、「100年以上生きているタンクなので、大事に使ってください」と感慨深げだったという。
最近でも、京都から学生が「写真を撮らせてほしい」とやって来たそうで、「なぜそんなに人気があるのか」と笑う藤室さん。黒のボディーはさび止めでシルバーになり、少々劣化もあるが、廃棄する予定はないそうで、今年もバリバリ働いてくれそうだ。
2020年2月8日付 765号 1面から