171117_12.jpg 型にはまった従来の卒業アルバムを革新的な技法で一大改革するなど、全国の写真館に変革をもたらし続ける”光と影の魔術師”、名張市桔梗が丘2番町の「写真の川地」を経営する営業写真家の川地清広さん(71)が、2017年度「卓越した技能者」(現代の名工)に選ばれた。


 卓越した技能を持ち、その道の第一人者とされる技能者を厚生労働省が表彰するもので、今年度は全国で149人、県内から5人が選ばれた。

 明治時代から140年続く老舗写真館の5代目。1946年6月、3人兄弟の長男として誕生し、地元の高校から大阪の日本写真専門学校に進み、19歳の時に卒業。その後、父親の博公さんのかばん持ちをしながら撮影技術や経営学を学んだ。

 32歳の時、欧州の写真家デビッド・ハミルトンの写真集を目にし、これまで見たこともない〝ファンタスティックな作品”に衝撃を受け、型にはまった写真から脱皮するための挑戦が始まった。

 最初に手掛けたのはストーリー性を持つ人物中心のフォトブックの開発。同市新町から桔梗が丘に移転し、風が自由に吹き抜け、自然光が差し込み、季節感のある、当時としては珍しい郊外型のスタジオを完成させた。そこで次々に誕生するフォトブックは反響を呼び、次第に写真館のヒット商品となった。

 だが、長年悩み抜いていた問題があった。「あの卒業アルバムではいかん。機械的に個人写真を撮るアルバムに個性を持たせたいが、突破口がない」と思い悩んでいた。

 そんな中、4年前の67歳の時、再び転機が訪れた。直腸がんと診断され、入院。病室でひらめいたのが、40年前に従妹からもらったカナダの写真家ユーサフ・カーシュの写真集だった。

 「これだ。光を操り、カメラマンが動けば、これまでと違ったアルバムが出来るはず」と直感。退院4日後の10月末から名張市内の幼稚園、小学校、伊賀市内の一部小学校で、自らがカメラを持ち撮影を始めた。一人ひとりの撮影場所は体育館の真ん中にした。園児や児童たちは、用意された跳び箱を使い、ひじをつくなどさまざまなポーズを取った。

 児童の後ろには新たに考案した強弱の光を放つ照明機材2灯を使用、立体感のある写真に仕上げた。児童だけでなく学校関係者の間でも評判を呼び、更にフェイスブックでも「いいね」が相次いだ。新たな撮影手法が誕生した瞬間だった。

 そのアルバムを「プレミアム卒業アルバム個人写真」と命名。中学校や高校にも広がり、今では26校(園)にもなる。

 日本写真文化協会の常任理事も務め、後継者育成にも力を注いでいる。川地さんの写真館には北海道から九州まで写真館の後継者が修業に訪れ、これまでに男女40人が技術を学んで巣立っていった。

 6日の表彰式には妻の光子さん(69)とともに出席。川地さんは「おやじと一緒にやり始めて50年。節目の年に、今までの積み重ねが評価されて本当にありがたい。(受賞)の通知を受け、先代のお墓参りに行き報告しました」と喜びをかみしめていた。

2017年11月11日付711号1面から

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