170809_20.jpg 「見えますか、お義父さん。今年もおいしいアスパラができましたよ」。義父の遺した農場を守る伊賀市桐ケ丘7丁目の中井奈緒美さん(35)。主婦から農場経営者へと新境地に挑んだ中井さんの2年目の熱い夏が始まった。

 転機は1年前の5月、義父忠司さんの急逝だった。忠司さんは定年後、同市比自岐の2千平方メートルの土地に8棟のハウスを設置、アスパラガスの栽培を始めた。義母の和子さんの手も借りながら、軌道に乗っていた中での訃報。67歳だった。
 不幸は重なり、農場のアスパラガスも病気になり、出荷しても廃棄されることが続いた。和子さんだけで世話できる規模でもなく、農場の委託を考えた。しかし、忠司さんの「日本一のアスパラを作る」と頑張っていた姿が中井さんの脳裏から離れなかった。
 「お義父さんが頑張ってきたことを無にはしたくない。私しかいない」。引き継ぐことは簡単なことではないのは百も承知だ。子育てをしながら、しかも全く未経験の分野に飛び込む自分にできるか不安だったが、迷っている暇はなかった。
 「お義父さんの農場を継ぐ」。義父が亡くなった翌月、中井さんは決意した。和子さんや夫の祥貴さん(38)も驚いたそうだが、止めはしなかった。
 決断後の動きは早かった。農場を義父の戒名から「瑞雲ファーム」と名付け、再出発。JA伊賀北部の営農指導員や農家の人たちに学んだのはもちろん、経営学も勉強した。最初に迎えた冬は土壌作りに精を出した。軽トラックに乗れるよう、マニュアル車の免許も新たに取得した。
 アスパラガスは4月から10月が収穫期。今は早朝5時に起き、農場に向かう。収穫と出荷は和子さんと二人三脚。蛇や虫が大の苦手な中井さんの「ギャー、お義母さん」という声が響くとすぐさま和子さんが退治に向かういいコンビだ。長男の凰貴君(7)も青空の下で宿題を済ませ手伝う。夕方4時にも再び収穫し、その後は翌日の準備をする。農場の草刈りは休日などに祥貴さんが担う。
 生活スタイルがすっかり変わってしまったという中井さん。どんどんアスパラガスが生えてくるため、塞ぎ込む間もなく、家族の絆も深まった。「お義父さんのアスパラを守っていかなければ。その気持ちだけで1年走ってきた」と笑う。
 今年は病気にもならず、いいアスパラガスが育ってきている。地元のスーパーにも「瑞雲ファーム」の名前入りで並んでいる。「おいしい」「甘い」と購入者からの声が届くとうれしいという。「やるというのは自分で決めたこと」と中井さん。農家の仕事に尊敬の念を抱き、「自然と向き合えるのはいいな」と話した。
2017年8月5日付705号1面から