【オースミイチバンの顔を見つめる川島さん(左)と梅田さん=名張市夏見で】
元主戦騎手・川島さんら 家族で紡いだ縁
2026年は「午年」。競走馬として活躍し、重賞競走を2勝した栗毛のサラブレッド「オースミイチバン」(16才)が、三重県名張市夏見の乗馬クラブ「ライディングクラブCARECA(カレカ)」で“第二の馬生”を過ごしている。引退競走馬のセカンドキャリアをつないだのは、現役時代に主戦を務めた日本中央競馬会(JRA)の元騎手、川島信二さん(42)=栗東・庄野靖志厩舎調教助手=と家族の縁だった。
オースミイチバンは09年生まれ。母は川島さんが主戦を務めた重賞4勝馬・オースミハルカで、11年10月にデビュー。翌年3月の未勝利戦から川島さんが騎乗し3連勝するなど、JRA所属22戦中15戦でコンビを組み、主にダートの中長距離路線で活躍した。

血統的にひづめが弱く、全力で走る際に十分な呼吸ができない喘鳴症(のど鳴り)にも悩まされた。最後の勝利から1年以上が経ち、競走馬の「不治の病」とも言われる屈腱炎の悪化に伴い引退。北海道日高町の白井牧場で休養していたが、脚の回復が目覚ましく、約2年ぶりに地方・ホッカイドウ競馬で復帰した。ホッカイドウ所属の6戦では4着が最高だったが、2度目の引退後も同牧場でスタッフ用の乗馬として過ごしていた。
オースミイチバンは、JRA・地方の重賞競走などで活躍した後、競馬や乗馬、繁殖などに供用されなくなった馬に助成する「引退名馬繋養展示事業」(ジャパン・スタッドブック・インターナショナル)の一環で、22年11月に名張へ来た。
広がる引退馬支援の輪
同クラブは、兵庫県で馬術用グローブの製造販売会社を営む梅田信さん(47)と、川島さんの妹・陽子さん(40)夫妻が、前身の「名張乗馬クラブ」を受け継いで同年4月から経営している。白井牧場でオースミイチバンを世話してきた陽子さんの双子の姉・純子さん(40)が、夫でホッカイドウ競馬(当時)の山本咲希到騎手(29)が兵庫へ移籍するのに伴い、川島さんが橋渡しをした。
同クラブには現在、サラブレッド10頭を含め約40頭がおり、母が同じ半弟オースミラナキラ(牡・13才)、川島さんの引退レースでコンビを組んだミエノソニック(牡・4才)なども在籍している。スタッフらから「イチバン」「イチくん」と呼ばれ、えさはニンジンよりも牧草を好むオースミイチバンは、仲良しの白毛のポニーと過ごす時間が一番楽しいそうだ。
川島さんはオースミイチバンの引退後も、北海道の牧場回りの際に年3回ほど顔を合わせてきた。「長くコンビを組んだ馬と、縁あってこうしてまた会うことができる。馬に関わる者として、こんな幸せなことはない。梅田オーナーが引き受けてくれたおかげ」と感謝の思いを語る。

「馬と関わる人増えて」小説やドラマで高まる関心
24年の「軽種馬統計」によれば、オースミイチバンが生まれた09年に国内で生産されたサラブレッドは7463頭。JRAや地方競馬を始めとした競馬界の取り組みや、早見和真さんの小説「ザ・ロイヤルファミリー」(19年)や同名のテレビドラマ(TBS)などの影響もあり、競走馬の生産・育成や引退競走馬のセカンドキャリアへの関心は高まりつつある。
同小説の構想段階から早見さんの取材に協力し、ドラマのエンドロールには騎手監修として名前が登場する川島さん。「自分の知っている馬が引退後にどこでどう過ごしているかは、生産・育成に関わってきた関係者も、現役時代を見てきたファンの方も気になるはず」と考えている。
現時点では、同事業の助成金だけでは飼料代をまかなうことも難しいのが現実だが、初めて同事業でオースミイチバンを受け入れた梅田さんは「できるだけ多くの馬を新しいオーナーに渡せるよう、取り組みが充実していけば。より多くの人が競走馬のことを知れるきっかけになってほしい」と願う。
セカンドキャリア
オースミイチバンとともに2つの重賞を勝った川島さんは「馬のセカンドキャリアを応援したい、馬を持ちたい、馬と触れ合いたいなど、さまざまな思いを持つ方がいて、馬と触れ合ったことがきっかけで馬と関わる世界に入ってくれる人が増えたら」と、栗毛の相棒をなでながら語った。


















