【子どもたちの作品を画面越しに見る坂口さん=伊賀市で】

「描くことで心軽く」クリスマスの己書

 三重県教育委員会が進める「オンラインの居場所」は、不登校の状態にある中高生らが安心して参加できる学びと交流の場をインターネットの仮想空間「メタバース」で実現する取り組みだ。この一つで、伊賀市東高倉の坂口真美さん(42)が講師を務める「己書教室」をのぞいてみた。

 パソコン画面に広がるのは、公園を思わせる空間。「メイン会場」と示された中央の丸い部分に、子どもらのアバター(分身)が、ぽつりぽつりと集まってきた。カメラも音声もオフでの参加が可能で、子どもたちの心理的なハードルも低い。

メタバース上の己書会場、右画面は坂口さん

 坂口さんは「己書おまみ道場」の上席師範で、市内外でいくつもの己書教室を開いている。高校の体育教員時代の上司が県教委で働いていた縁で、2年前からこの取り組みに参加している。

 「おはようございます」。坂口さんの画面越しのあいさつに、子どもたちのアバターが「パチパチパチ」と拍手で応える。坂口さんは、明るい声でこの日の内容を説明する。

 この日のテーマはクリスマス。坂口さんは筆ペンや色ペン、はがきを用意し、カメラを手元に切り替え、さらさらと手本の文字やイラストを描いていく。「書き順は気にしなくていい」「失敗は無いよ」「感じたまま書いてみて」などの声が、参加者の緊張をほぐしていく。

 画面の向こうでは、子どもたちがそれぞれのペースで筆を動かす。しばらくすると、描き終えた作品が次々と画面に現れる。

 「すてきだね」「その雰囲気、すごく良い」。坂口さんの肯定の一言を受けながら、子どもたちは次のお題へと挑戦していく。

不登校の小中高生、県内に6000人

 県教委によると、オンラインの居場所は不登校支援の一環として2022年から実施。芸術や交流活動、社会見学など幅広いプログラムが用意され、他県との連携も進めている。プログラムの中でも、参加者が自由に自分を表現できる己書は、特に人気を集めているという。

 県内では約6000人の小中高生が不登校となっており、オンラインの居場所は支援策の一つとして注目されている。多い日には県内外から約50人が参加しており、日々多くの子どもたちが画面越しに集まってくる。

 坂口さんは「最初は作品を見せたがらなかった子が、自分から画面に出してくれるようになった。描くことで、心が少しでも軽くなればうれしい。この取り組みを、もっと多くの人に知ってほしい」と語った。

参加した子どもたちがYOUに寄せた作品(県教委提供)

11月の己書教室に参加した子どもたちの感想

参加した子どもたちがYOUに寄せた作品(同)

伊賀市教育支援センターふれあいからの参加者
「筆ペンで書くのが楽しかった」「己書の時間が楽しみ」「家でも作ってみたい」(小中学生各3人、いずれも伊賀市在住)

鈴鹿市教育支援センターけやきからの参加者
「難しいと思っていたけれど、お手本があるし、やってみたら楽しかった」「お地蔵さんを描くのが楽しい」「季節感があって楽しみにしている」(中学生5人、いずれも鈴鹿市在住)

県立教育支援センターこもれびからの参加者
「集中して書くことでメンタルを安定させることができた」「おまみ先生とは、息子さんと名前が似ていることをきっかけにいつも仲良くしてもらっているのでうれしい。いつも自分のオリジナル作品をほめてもらっている」(高校生年代5人)

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