【会社の歩みを振り返る米田会長=名張市黒田で】

紫蘭もサラダ館もカーブスも

 奈良県曽爾村に本社を構える株式会社ヨネダが、今年8月で創業80周年を迎える。1945年の戦後の混乱期に衣類と雑貨を扱う小さな商店として始まり、現在ではギフト販売、葬祭、フィットネスジムまで手がける多角経営の地域密着型企業へと成長した。その歩みを米田一雄会長(73)に聞いた。

 創業者の父・竹治郎さん(故人)が戦地から帰還したのを機に、地元で商店を開いたのが始まりだ。米田会長は高校卒業後、18歳で家業に加わった。従業員はおらず、父と2人で店を切り盛りした。

 転機は父親から経営を引き継いだ38歳の時。それまでの売掛中心から、現金取引でのビジネスを目指し、長年の父の反対を押し切って、フランチャイズのギフト店「シャディサラダ館奥宇陀店」を開業した。当時、シャディ本部から「年間売上1億円を達成できなければ閉店」という厳しい条件を突きつけられたが、初年度で達成。サラダ館の全国第1号店として、堂々たる滑り出しを見せた。

 その後も橿原市、名張市へと店舗を拡大。2000年以降、全国販売実績1位を19回、2位を5回獲得。「自分一人では到底できなかった。優秀な従業員が支えてくれた」と話す米田会長の言葉には、深い感謝がにじむ。

 次なる挑戦は葬祭事業だった。06年、名張市黒田に「メモリアルホール紫蘭」を開業。名前は「あなたを忘れない」の花言葉を持ち、道端や庭など身近な場所に花を咲かせるラン科のシラン(紫蘭)から取った。

 当初はスタッフ6人からの手探りのスタートで、新規参入への反発にも直面したが、地道に信頼関係の構築を重ねた。今では名張市に4施設、伊賀市に1施設、奈良県に2施設の計7施設を展開し、地域の中で欠かせない存在となっている。

 特に重視したのは、料金体系の明確化と透明性だった。顧客の不安を取り除く仕組みを時代に先んじて整え、信頼を勝ち取った。更に10年ほど前、「営業部を廃止する」という異例の決断を下した。「心を込めて接すれば、お客さまが営業マンになってくださる」。その言葉通り、口コミが集客の柱となり、業績はむしろ伸び続けた。

紫蘭本館の無料カフェスペース

 21年に新築移転した「メモリアルホール紫蘭本館」(名張市黒田)には、1階ロビーに地域住民が気軽に立ち寄り無料で利用できるカフェスペースを用意。「葬儀場」だけではなく「人が集まる場所」にしたい――、そんな思いが形になった。

 同社の事業は、仏壇販売、飲食、ボクシングジム、ダンススタジオ、エステと多岐にわたる。中でも、女性専用フィットネスクラブ「カーブス」は現在、名張市内に2店舗、奈良県内に10店舗を展開。会員数は3800人を超え、健康と交流の場として地域の中に根を下ろした。

 ギフトを買った顧客が葬儀を依頼し、フィットネスの会員の子どもがダンス教室に通うというように、5つの事業はつながっていく。「人と人との縁こそが最大の資産だ」と米田会長は強調する。

 今年4月には、将来の更なる成長に向け、持ち株会社「ヨネダホールディング」を設立。経営のバトンは長男・知生社長(47)へと着実に引き継がれている。「自分ばかりが前に出ては、息子の出番がない。一歩引き、支える立場でありたい」と語る米田会長の表情は穏やかだ。

 8月に創業80周年を迎え、来年には紫蘭の開業から20周年となる。地域への恩返しとして、記念イベントの開催も予定しているという。現在の従業員数は186人。米田会長は「従業員は家族同然。ともに幸せになる。それが経営の本質だ」と力強く語った。

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