【スペイン広場を模したチャペルの前に立つ西川さん(左)と井野さん夫妻。貴祥さん(中央)に肩車されているのは長女・日佳梨ちゃん(4)=名張市桔梗が丘1番町で】

 近鉄桔梗が丘駅前の結婚式場「桔梗が丘ヴェルージュ」(三重県名張市桔梗が丘1)が4月25日、閉館する。2007年8月の開業以来、1600組を超えるカップルがこの場所から新たな人生を歩み出した。

 「結婚式は『これから頑張ります』とみんなの前で誓う場所だ」。開業時の支配人で、現在は運営会社ベルウイングの冠婚部長を務める松浦訓さん(58)はそう語る。建設準備から閉館の決断に至るまで、約20年間を見届けてきた一人だ。

 式場は敷地面積約4800平方メートル、鉄骨造地下1階、地上2階建て。映画「ローマの休日」で知られるイタリア・ローマのスペイン広場を模したチャペルと大階段、120人収容の披露宴会場を備える。駅前に立つその姿は、非日常の象徴であると同時に、日々の風景にも溶け込んでいた。大階段は若者たちが腰を下ろし、語らう場としても親しまれた。

 挙式数のピークは08年の年間165組。時代とともに「ナシ婚」や少人数婚が広がり、コロナ禍で急減した。その後持ち直したものの、大阪や名古屋で式を挙げる流れも強まり、近年は年間30組前後にとどまっていた。松浦さんは「伊賀エリア最後の式場を残せず申し訳ない」と語る。

 一方、結婚式だけの場ではなかった。開業当初から続く「平日限定ランチ」は延べ27万人近くが利用し、「式場は入りにくい」という壁を和らげた。

 企業の忘新年会や歓送迎会、地域団体の懇親会などにも活用され、祝宴と日常が交差する場となってきた。プランナーや料理人、パティシエ、衣装スタッフら約30人が、それぞれの持ち場で支えてきた。閉館後も、衣装部門やケーキ店、ネイルサロンは市内の別拠点で営業を続ける。

 ランドマークとして親しまれた建物は解体される予定だ。それでも、この場所で交わされた誓いの声は、今も暮らしの中に息づく。


「ここで挙げてよかった」井野さん夫妻

階段を備えた披露宴会場でグラスを交わす井野さん夫妻(2020年、提供写真)

 2020年2月。井野貴祥さん(40)、さなえさん(37)夫妻は、ヴェルージュで結婚式を挙げた。挙式から間もなく、コロナ禍に突入。多くの結婚式が延期や中止に追い込まれる直前だった。

 貴祥さんは伊賀市出身、さなえさんは大阪府出身。2人の出会いは県立名張桔梗丘高校の吹奏楽部だった。

 先輩と後輩だが在学期間は重なっていない。さなえさんが1年生の時、卒業していた貴祥さんが行事を手伝いに来たのが最初だった。当時は特別な感情はなかったという。

 社会人になり、現在2人が勤める会社で再会。同じ職場で働くうちに距離が縮まり、17年に交際を始めた。1年後、結婚を決めた。

 式場選びの決め手は「地元」だった。県外という選択肢もあったが、地元の家族や友人が集まりやすく、駅に近い立地が後押しした。「みんなに感謝を伝えられる場所にしたかった」と2人は口をそろえる。

 出席者は約60人で、友人を中心に招いた。挙式では、白を基調とした高い天井のチャペルで、吹奏楽部の仲間がオルガンとフルートを生演奏し、その音色に包まれて入場。貴祥さんの弟とさなえさんの先輩は、手作りの誓約書を2人にサプライズで用意した。披露宴では、大階段から入場できる会場で恩師らのメッセージ映像が流れた後、友人たちが輪になって歌を披露するサプライズもあった。

 バージンロードは、さなえさんが父・川満宏さん(故人)と歩いた。当初は「父が高齢なので恥ずかしい」と迷っていたという。しかし、一度きりの機会だとスタッフから背中を押され、父の腕を取った。川満さんは緊張のあまり手と足が同じ側に出ていたという。

 「一緒に歩いてよかった」とさなえさん。予想通り不自然だった歩みで会場に沸いた笑いも、今では大切な思い出になっている。

結婚式を終えた直後に集まった西川さん(中央)と井野さん夫妻(同)

 担当プランナーの西川奈瑠美さん(29)は2人の思いをくみ取り、打ち合わせでは結婚式の話題だけでなく、好きなアニメや暮らしの話まで交わした。貴祥さんは「したいことを最大限くみ取って提案してくれた」、さなえさんは「友だちと話す感覚だった」と振り返る。

 式後も、おせち販売やマルシェ、ランチなどで式場を訪れた。2人は「『ただいま』と帰ってくる場所だったので、なくなるのは本当に寂しい」と話す。それでも、「感謝と、これからもお願いしますという気持ちを、みんなの前で伝えられた。ここで結婚式を挙げて本当によかった」と力を込めた。

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