【竹の仕上がり具合を確認する稲垣さん=伊賀市千貝で】

 「自ら竹を切り、自ら剣士の声を聞き、自ら竹刀を作る」。三重県伊賀市千貝の稲垣豊さん(53)は剣道教士七段で、農業の傍ら、全国でも数少ない竹刀職人として活動している。単に製作するだけでなく、地元産の竹を使った受注製作にこだわり、武道による地域活性化も見据えている。

竹刀を構える稲垣さん=伊賀市川合で

 幼少期から始めた剣道。皇学館高、大阪体育大と、剣道をするために進学した。特に大学では専門的に剣道を学んだ。その後、地元で就職し、農業やイベント企画に携わりながらも、指導者として剣道を続けていた。

 2019年、竹刀を作っている宮城県在住の職人と出会う機会があった。ものづくりに興味があった稲垣さんは「伊賀にいっぱいある竹やぶ。この竹で竹刀が作れないだろうか」と思いついたといい、長期休暇を利用し、宮城県まで竹刀作りを習いに行った。

 自身が使う竹刀を自ら作ったことに、とても感動したという。竹刀職人が全国に20人もいないと聞き及んだことも創作意欲に拍車をかけ、「やってみたい」との思いがきっかけになった。

 稲垣さんが竹刀作りに使用するのは伊賀産の「マダケ」。12月から1、2月の寒い時期に伐採する。直径9センチ以上で、生えてから4、5年の、若過ぎず、硬くなり過ぎず、重くないなど、竹を選別するのも難しかったそうで、節の加減で竹の下部しか使えないことも学んだ。

 8枚に割った竹は乾燥させて、更に熟成させ、水分を抜くのに1年ほどかかるそう。長く熟成すればするほど、引き締まって良い竹刀になるらしい。また、廃棄することになる竹の上部も利活用できないかと、粉砕して田んぼの土壌作りに生かせればと模索中だ。

竹刀を手にする稲垣さん

日本代表や海外からも

 22年には「半分農業、半分剣道」として〝豊かな時間〟を使おうと、米農家としての「豊農園」、竹刀職人としての「ゆたか竹刀製作所」、更に事業として営む「Yutaka・Labo」をそれぞれ立ち上げた。公式ホームページ(https://yutaka-shinai.com/)には国内だけでなく、フランスやドイツ、米国、韓国などから受注が入るようになり、剣道の日本代表選手からも依頼が来るまでになった。

 今年10月には竹刀の納品を兼ねた体験教室や交流稽古会のため、台湾を訪れたといい、現在は剣道八段の審査に挑戦している。「伊賀が剣道などの武道を通して元気になれば」と語り、「試行錯誤を重ねて竹刀を作ってきた。海外など交流も広がってきたので、これが伊賀の活性化につながるよう頑張りたい」と力を込めた。

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