【ビニールハウス内で育つ苗木の様子を見る松岡社長=伊賀市で】
安定生産へ採種園で工夫
戦前から植林用の苗木を育てて販売している、三重県伊賀市山出の株式会社「松岡種苗園」が今春、ビニールハウスで少花粉の杉、ヒノキの苗木を生産する採種園を建造した。花粉症対策の一環で、県内では官民含め初めての取り組みとして注目を集めている。
近年、花粉症がクローズアップされる中、10年ほど前から林野庁が主導し、各県の林業研究所などが、花粉の量が通常の2、3%しか出ない少花粉の杉、ヒノキの採種園を造成してきた。全国的に花粉症対策品種の種が足りないため、国が補助金を出して民間でも採種園の造成を推奨しているもので、県内では同社が初めて手を挙げた。

水田地帯の中にあるビニールハウスは、1000平方メートルの敷地内に3棟建っている。ハウス内では、少花粉の杉とヒノキを100本ずつと、少花粉の品種より花粉が出るが、それでも通常の2分の1以下の量に抑えた低花粉の「特定母樹」と呼ばれる新品種を100本植えている。今年の1、2月に植えたばかりで、背丈は約60センチ。これから2年間で2㍍ほどに成長させ、種子を採取する。
花粉がほとんど飛ばない少花粉の品種から種を採るには、人工的に花粉量を増やす薬剤散布(ジベレリン処理)が必要になる。また、高温から母樹を守るため、大型扇風機を回したり、散水量を増やしたりするなど、管理の手間もかかるそうだ。
同社は10年ほど前から、低花粉の特定母樹の採種園を造成してきたが、露地の場合は外から花粉が飛んでくる上、カメムシによる被害も大きいという。一方、ビニールハウスという閉鎖された場所で採種することにより、外部からの影響を受けにくく、100%少花粉の種を高品質で採種できるという。
現在、家族5人と従業員2人で杉やヒノキの他、松、クヌギなどを合わせ年間50万本の苗木を生産・販売している。杉とヒノキは全体の9割を占め、中でも低花粉の特定母樹は全体の3分の1を占める。
かつて多かった苗木生産者
滋賀県の農家出身で、4代目を継いだ松岡剛司社長(49)は「本当は花粉症対策の品種に100%切り替えたい。今回の閉鎖型採種園で、少花粉の種子が安定生産できれば」と期待を寄せる。
「50年ほど前は、この地域一帯には苗木の生産者が数十軒あったが、今は当社のみが残った。材価が安いこともあり、近年は植林が年々減り続けている。しかし、花粉症対策として、大阪や名古屋など大都市に近い地域の山林では、花粉の少ない品種に植え替えることに補助金が出るケースもあり、今後は伐採や植林が増えていくと思う」と話している。
同社の苗木は山の赤土で育てられる。また、水はけが良く、根腐りのしにくい斜面地で育つ。冬は気温が氷点下になり、霧に覆われる伊賀の厳しい気候の中で、より丈夫に育つという。松岡社長は「伊賀の恵まれた条件の下、優良苗木を生産しながら、花粉症対策品種や松枯れに強い品種の生産にも積極的に取り組んでいきたい」と力強く語った。
問い合わせは同社(0595・21・4737)まで。