【執筆した月刊誌を手にする三橋さん=伊賀市石川】
「伊賀という独特な環境と、それを守り活用した先人たち。環境と人間の相互関係から生まれた、本来の忍術の姿に触れてほしい」。三重大学大学院で忍者・忍術学の博士号を初めて取得し、武術や農業などを通じて忍者のあるべき姿を体現している三重県伊賀市石川の三橋源一さん(50)が、福音館書店(東京)の児童生徒向け月刊誌「たくさんのふしぎ」9月号「忍者から見た世界」を執筆した。
大阪府枚方市出身で、鳥取大で農学を学び、京都大大学院で農林経済学修士となった三橋さんは、2018年に現在地の古民家へ移住し、米作りなど農業を営む傍ら、忍術・武術の道場を併設した農業民泊施設を運営している。地元で忍術や忍者の知恵を防災に役立てる講話などにも注力し、今年から消防団員としても活動している。

今回号を企画した同社「たくさんのふしぎ」編集部の北森芳徳さん(43)は名張市出身。「実際に伊賀に住み、忍術と武術を体得している方なので、他の人には書けないことを書いてくれるのでは」と構想を練り、19年秋から執筆に向けた交渉や、絵を担当する絵本作家の飯野和好さんとともに伊賀へ足を運び、打ち合わせを進めてきた。
内容は、忍者が誕生した時代背景、忍術の目的、普段の生活、農作業での体の使い方と忍術との共通点、身体能力、装束や道具などで、小中学生向けということで、可能な限り平易な表現を用いた。三橋さんは「子どもたちが学びを通じて地域の中で成長していく一助になれば」と込めた思いを語る。
持続可能な生活 伊賀で実感
「食べるものを育て、地域を守り、地域の人たちと生きていくという持続可能な生活を、私たちは長い間、知らず知らずのうちに実践してきた。農業や地域のつながりがあってこその忍者なのだと、伊賀で暮らすようになって実感している」と語る三橋さんは、更にこう付け加えた。「『忍者学栄えて忍者の里滅ぶ』とならないよう、興味のある範囲だけでなく、『地域に生きた人間の姿全体』まで関心を広げ、今も伊賀を守る地域の方々に思いを寄せてほしい」。
「たくさんのふしぎ」9月号は本文40ページ(B5変型判)で、税込み810円。伊賀地域の書店で販売している。「忍者らしい体の動きなど、絵の細部にもこだわり、思っていた以上の内容になった」と話す北森さんは「テレビや漫画などで忍者を知った子たちにも、この本で楽しく忍者の本質に触れてもらえたら」と期待を寄せた。