【式場前で談笑する(右から)大和さん、中元さん、恵理さん、宮澤さん=名張市朝日町で】
節目の舞台に心から祝福を
三重県名張市朝日町の結婚式場「アニエス・ガーデン名張」(以下、アニエス)が、6月末で閉館する。前身施設から数えて、36年近くにわたって多くの人生の節目の舞台となってきた。
開業は1989年9月。複数会場を備えた「名張平安閣」としてスタートし、時代の変化に合わせて2005年にアニエスが隣接地に誕生した。11年には両施設が統合し、チャペルやプライベートガーデンを備えた欧風式場として、地域の人々に愛されてきた。
アニエスは、黄色い外観の建物と「1日1組限定」の貸し切りスタイルが特徴。まるで別荘のようにくつろげる空間で、誰にも邪魔されない特別な時間を提供してきた。
支配人「残したかった思い強い」

支配人の大和拓弥さん(30)は、10年ほど前からアニエスに関わってきた。「一組一組に寄り添いながら、心から祝福できる場を作ってきた」と語る。
この場所で門出を迎えたカップルは、名張平安閣で2554組、アニエスで1281組(6月末までの予定含む)。計3835組の幸せを見届けてきた。
2000年のピーク時には年間183組が式を挙げたが、少子化や、入籍だけで済ませる「ナシ婚」の増加、コロナ禍もあり、近年は9分の1にまで落ち込んだ。大和さんは「残したかったという思いは強いが、最後の1日まで、この場所を選んでくださった方々のために最善を尽くしたい」と話した。
アニエスの閉館後、運営元の「三重平安閣」(本社・四日市市)の結婚式場は、鈴鹿市と四日市市の2拠点に絞られる。
閉館「信じられない」 21年挙式・中元さん夫妻
21年11月にアニエスで結婚式を挙げた名張市朝日町の中元悠貴さん(36)、恵理さん(36)夫妻は、閉館の知らせを受けた時のことを「信じられなかった」と振り返る。
「家から近かったという理由だけじゃない。式場の温もりと、スタッフの人柄にひかれた」と恵理さんは語る。「打ち合わせが毎回楽しみだった。スタッフは友人のような存在だった」
コロナ禍でも笑顔と歓声「アニエスで挙げてよかった」
当時はコロナ禍の真っただ中だった。消毒やマスク着用を徹底しながらも、会場には笑顔と歓声があふれた。
ブーケトスの代わりに実施した菓子まきや、電話番号を使ったくじ引きが大いに盛り上がり、景品にはたこ焼き器や、恵理さんの実家の米も登場した。中元さん夫妻の共通の趣味はアニメとゲームで、「ラブライブ!」のぬいぐるみを会場に飾り、「あつまれ どうぶつの森」のBGMを流すなど、2人らしさをふんだんに詰め込んだ。
「おそろいのアニメTシャツで打ち合わせに行くのが恒例だった」と語る中元さん。プランナーの宮澤来美さん(25)も「どんなTシャツで来られるのか楽しみだった。話が盛り上がって、打ち合わせそっちのけで2時間しゃべってしまうこともあった」と笑う。

“第二の居場所” 記念日も欠かさず
式が終わってからも、2人はアニエス併設のカフェに足しげく通った。恵理さんは「月替わりのフルーツパフェが本当に楽しみで、皆勤賞だった」と振り返る。マルシェやイベントにも足を運び、アニエスは“第二の居場所”になった。
閉館を知ったのは、昨年秋。中元さんは「本当に驚いた。人生の節目を迎えた場所がなくなることは、本当に寂しい」と話す。結婚記念日にも必ず訪れていた場所だけに、その喪失感は大きい。
それでも2人は口をそろえる。「アニエスで式を挙げてよかった。本当にありがとう。そして、お疲れさまでした」
アニエスは、間もなくその役目を終えるが、そこに刻まれた記憶は、これからも人々の心の中で生き続ける。