【マシニングセンタを使い、金属を切り抜いて作った刃物を持つ江口さん】
包丁やはさみなどの一般的な刃物ではなく、工場の機械に取り付けて使用する工業用刃物を生産している会社がある。三重県名張市瀬古口の大阪特殊刃物株式会社名張工場だ。工場責任者は、同社常務取締役の江口雄二さん(49)で、堺市にある同社の本社と本社工場を担当する実兄の剛志社長(51)とともに兄弟で会社を運営している。
創業は1987年。現在は引退している父与志雄さん(79)が大阪府藤井寺市で特殊刃物の製造を始めた。顧客はあらゆる業界のメーカーで、さまざまな形状や性能の刃物の受注に応えている。
ゴムや樹脂、紙や段ボールを扱う生産現場で素材を切断したり、複数本の電線を束ねたワイヤーハーネスの製造工程で銅線の外側のコードを剥いだりする刃物。
更には弁当屋のチェーン店で使われる肉を切る刃、自走式草刈り機の替え刃、変わったものでは東北のリンゴ農家からの注文でリンゴの皮をむく専用刃など多種多様だ。

「景気に左右されない」
名張工場は11年前に操業を始め、現在江口さんを含めていずれも40代の従業員4人が働いている。鉄骨平屋建ての工場内には、テーブルの上に載せた原材料の鋼を左右に動かしながら、高速で回転する砥石で1ミクロン単位に削っていく「平面研削盤」や、張ったワイヤーを放電させてコンピューターが指示した図面通りに鉄板をくり抜く「ワイヤー放電加工機」などが数多く並んでいる。
更に4年前に導入したのが「マシニングセンタ」で、金属の研削、穴あけ、仕上げ研磨などさまざまな加工を自動で連続して行える。
「仕事の幅を広げるために今までにない機械を導入した。フル稼働させるのが今後の課題」と江口さん。
特殊刃物を生産する会社は現在、伊賀地域でもごく少ないそうで、「競争が少ないのが業界としての強み。刃物の大手メーカーが手を出さない特異な分野で勝負している」とし、「切るという作業工程は、設備が進化しても必ず残るもので、景気にあまり左右されない」と話す。
生産性向上へ
同社の基本理念に「刃物が変われば生産性も変わる」という一文がある。「作った刃物が『よく切れる』『長持ちする』『交換する手間が楽』と思っていただくことで、ユーザーの生産性を上げることが一番重要」と話す江口さん。最近は、耐久性に優れた「超硬合金」と呼ばれる人工素材で作った刃物の受注が主流になっているという。
江口さんは「当社は刃物で売り出しているが、金属の特殊加工全般を扱うプロ集団なので、兄の本社と連携しながら更に多方面の受注を獲得していきたい」と力を込めた。