【熟練の技術者による縫製作業=名張市夏見で】

リサーチと開発の「先駆者」に

 17の開発目標があるSDGsの1番は「貧困をなくそう」だ。革製かばんなどの製造・販売を手がける株式会社丸富商会(本社・大阪市)の奥中利直社長(73)は「開発途上国において新しい雇用を生み出し貧困を救うというのも事業テーマの一つ」と話す。

 同社は国内生産拠点の名張支店(三重県名張市夏見)の他に、バングラデシュ、ミャンマー、中国に3つの合弁会社を展開するなど事業のグローバル化を図っている。特に軍事政権で経済が低迷しているミャンマーの工場では250人を雇用しており、「厳しい経済状況の中、労働力を確保する意義は大きいと思う」と話す。

 奥中社長は今年の2月、3年半ぶりに現地を訪問。8月以降、名張支店に3人の女性を研修生として受け入れ、ものづくりのノウハウを勉強してもらうことを決めた。貧困の差が激しい現地では日本へ行って安定した収入を得、家族の生活を豊かにさせたいという夢を抱く若者が多いという。

 「ミャンマー国内には就職先が少ない。彼らは勤勉で、貧しさゆえの前向きさがあり、夢をかなえるために学校で日本語を必死に覚えている。我々にとっても労働力不足を補うというメリットもある。彼らが両国の架け橋になって、帰国後、当社の現地工場で働いてもらうのが理想」と話す。

 同社のSDGsの取り組みのもう一つは、環境に優しい商品作りだ。革を生産する工程で使用する化学薬品の安全性の確保やクリーンな排水処理、効率的なエネルギー使用などの環境対策を監査する国際団体「レザー・ワーキング・グループ(LWG)」の認証を2021年に取得している。このLGW認証は毎年更新されており、同社は最高位の「ゴールド」に次ぐ「シルバー」のレベルにある。

自社製品や取り組みを解説する前野チーフ

 スペインの有名ブランドのかばんをOEM(相手先ブランド)で受注している営業部の前野剛チーフ(47)は「革やナイロンなどの主材料だけでなく、金具やファスナーなども環境基準をクリアした物でないと使えなくなっている。また、かばんに使う部材の7割はリサイクルされるのが条件になっている。この業界において、環境にやさしい材料リサーチと開発に携わる先駆者になる気持ちで頑張りたい」と決意を語った。

 「メイド・イン・ジャパン」の拠点である名張支店では、かばん作りを市民に広く知ってもらう体験工房(ワークショップ)を運営している。端材を使い、財布やキーホルダーの小物などから本格的なかばんまで、希望者のニーズに応じて開催している。

 奥中社長は「ものづくりは文化であり、この無形の文化を広く伝えていくことは私たちの考えるSDGs。余裕ができれば学校や老人ホーム、障害者施設などの福祉関係にも訪問し、ワークショップを通じて市民に憩いの場を提供し、ものづくりの楽しさを伝えていきたい」と話している。

 問い合わせは同社名張支店(0595・41・2156)まで。

体験工房の様子
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