【伊賀市内で一昨年にあった鹿との衝突事故を記録したドライブレコーダーの映像。(取材した男性とは別の読者提供)】

 山間部の道を運転していると突然、鹿が飛び出してくることがある。三重県伊賀地域では、野生の鹿と車が衝突する事故が数多く発生しており、繁殖期の秋だけでなく出産期を迎えるこれからの季節も特に注意が必要だ。〈YouTubeで動画(https://youtu.be/G2Zm9FFFYGs)〉

 県や伊賀、名張両市によると、伊賀地域の一般道上で見つかった動物の死骸の処理件数は年間約850件。このうち鹿は、伊賀市内が約150件、名張市内が約90件に上る。

鹿とぶつかった伊賀市の男性

 伊賀市に住む公務員の男性(50)は10年ほど前、勤務先から自宅への帰路に伊賀コリドールロードを乗用車で走行中、暗い左手の山から突然飛び出してきた鹿と衝突。急ブレーキをかけ、ハンドルを右に切ったが避けられなかったという。

 衝突した鹿はその後、山へと逃げ去った。男性にけがはなかったが、車は左前部のバンパーなどが大きく凹んだ。

 警察に連絡して事故処理をした後、自動車修理店に車を持ち込むと、修理費の見積額は40万円以上だった。加入していた車両保険は鹿との衝突も保障対象だったが、修理費を全額賄えず、結局は廃車にして買い替えることにしたという。

前部が壊れた車(男性提供)

事故に遭った鹿はどうなる

 男性が衝突した鹿は逃げ去ったが、事故の状況によっては鹿が絶命したり、負傷したまま道路上で動けなくなったりするケースもある。

 名張市維持管理室によると、道路上で鹿が動けなくなっている場合、けがの状況によっては山に戻ることが困難と判断し、やむを得ず現場で電気ショックなどによる殺処分を行うことがある。市の担当者は「野生動物は気性が激しいことが多く、二次被害の防止の観点からも必要な措置。ご理解頂きたい」としている。

処理請け負う業者は

 行政の委託で動物の処理を請け負う業者の担当者は「安全確保のために誰かがしなければならない」と話す。この業者は道路の維持修繕作業も含めて365日、深夜早朝も24時間体制で備えており、多い時には一晩で7頭くらい対応したこともあったという。

 時には動物が暴れ、駆けつけた作業員が危険にさらされることもあるといい、担当者は「動物が山に戻れる状況なら戻すが、他の車や人に危害を加えるおそれがある場合も多い。発見しても動物には近寄らないでほしい」と話す。

どうしたらいいのか

 鹿が出没する可能性が高い道路には、黄色に黒の絵柄が入ったひし形の警戒標識が設置されている。ただし伊賀地域は、標識の無い場所でも鹿が出没しており、山間部の道路を夜間に走行する際は十分注意する必要がある。状況に応じてハイビームを活用することで、鹿を早く発見できる可能性が高まる。

鹿がデザインされた国道163号脇の警戒標識=伊賀市長田で

もし衝突したら、発見したら

 注意して運転しても、前出の男性のようにどうしても鹿との衝突を避けられない状況もあるかもしれない。衝突してしまった場合は、安全な場所に車を止めてから、警察に連絡する必要がある。

 道路上にある動物の死骸や動けなくなった動物を発見した場合は、二次災害を防止するために道路管理者に連絡する必要がある。管理者は道路によって違い、高速道路と国道のうち指定区間は国土交通省、国道のうち指定区間外と都道府県道は各都道府県、市町村道は各市町村となる。

 道路緊急ダイヤル(#9910)は国土交通省が24時間体制で運営しており、道路の穴や汚れ、落下物など道路の異状に関する通報も含めて一元的に受け付けている。県や市町村が管理する道路だった場合、同省から各管理者に連絡が届く。

鹿対策でピンクのテープが取り付けられた市道脇=名張市すずらん台で
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