昔ながらの手作業でしょうゆを醸造する三重県伊賀市島ケ原の老舗「福岡醤油店」(川向美香社長)には、120年を経た今も現役の「キリン式圧搾機」がある。製造現場を見学する人に仕組みを分かりやすく伝えようと、10分の1サイズの模型を新たに製作した。
キリン式圧搾機は、木造平屋の醸造蔵の中にあり、主に「さお」と「柱」と「根かせ」から成る。さおはキリンの首のように長いケヤキの丸太棒(全長6メートル、直径30センチ)で、先端に鉄製の500キロ以上の重りを取り付け、てこの原理でもろみ(大豆と小麦が発酵したもの)を搾る。地下には柱の土台となる根かせと呼ばれる栗の木の棒が埋められており、全体を支えている。
川向社長の次女で品質管理担当の伶実さん(27)によると、1週間かけてもろみをゆっくり搾るため、機械による圧搾と違い、不純物が出にくく、雑味のないすっきりとした味わいに仕上がるという。キリン式圧搾機を現役で使い続けているしょうゆ醸造場は全国でも珍しいといい、圧搾機も含め、醸造蔵全体が1998年に国の登録有形文化財になっている。
醸造蔵には県内外から見学者が訪れるが、圧搾機の仕組みが地下にも及ぶため、口頭での説明だけではなかなか伝わりにくかった。伶実さんと三女で営業担当の志季さん(27)の双子姉妹で相談し、模型の製作を企画。過去にこうじぶたを製作してもらった家具職人の細野佳恵さん(43)に依頼した。
細野さんは同市長田で木工工房「ティックルニナ」を構え、テーブルやキャビネットなどをオーダーメイドで作っているが、模型は初めてだった。圧搾機の構造を入念に調べ、約1週間かけて完成させたという。
細野さんは「シンプルな造りだが、実物はかなりの重さに耐えられるように造られていると感じた。模型には、実際に体験ができるような塗装を施した」と話す。志季さんは「模型をこれからさまざまな場面で活用していきたい」、川向社長は「受け継いだものを次世代に渡すのが大事。キリン式圧搾機をこれからも大切に守っていきたい」と話した。
醸造蔵見学の申し込み、問い合わせは同店(0595・59・3121)まで。