【制作した木象嵌を紹介する(左から)玲菜さん、ゆかりさん、山岡さん】

 「ペットとの思い出を形に残してあげたい」。三重県伊賀市小田町で生花店を営む山岡将宣さん(63)、妻のゆかりさん(55)、長女の玲菜さん(22)は、切り取った薄い木材を組み合わせて絵を作る伝統工芸「木象嵌」で、利用客らの生前のペットの似顔絵作りを始めた。

 山岡さんが経営する生花店では、5、6年ほど前からペット供養に花を買いに来る人が増え始めた。飼い主から聞いたペットの性格や容姿に合う供花を選んでいたそうで、生前の思い出話に触れる中、飼い主とペットが更に幸せになる何かを、家族3人で探し始めたという。

 昨年10月、3人は愛犬「ジャック」を連れて静岡県に旅行をした際、ペット同伴ができるレストランを訪問。店内で犬を題材にした木象嵌を偶然目にし、その精巧なつくりに衝撃を受けた。その後は予定を全てキャンセルし、「我が家の愛犬でも作ってほしい」と、店員から教えてもらった作者・横田克彦さんの近くの工房を訪ねた。

 工房に所狭しと並べられた作品からヒントを得た3人は、利用客の生前のペットを題材にした木象嵌の制作を決めた。その後は月1回の頻度で約1年間、横田さんから指導を仰ぎ、1回につき現地に3、4日ほど滞在しながら技術を身に着けた。

 ペットの写真をかたどった下絵に沿って、目や鼻などパーツごとに切り取った薄い木材を配置し、ニスを塗って仕上げる。木材をカッターで切る作業は精密さが求められ、動物の小さな目や細い毛を表現するのは難しく、最初は何度も割れて失敗したという。3人は相談し合う協力関係でありながら、互いに意識し合う競争相手だそうで、山岡さんは「一番上手なのが妻。先生から一番注意されていたのが僕」と苦笑する。

工夫足し「写真より魅力的に」

 材料となる木は、ローズウッドやマホガニー、メイプル、チークなど、木目や色合いもさまざまで、木の組み合わせで毛の流れや立体感を表現している。「写真より魅力的に」を意識し、実物を忠実に再現するのではなく、色を変えるなどの面白みを付け足す工夫もしているそうだ。

 今年10月中旬から、店の壁一面に作品を展示しており、依頼があれば受け付けていくそうで、現在飼っているペットのものも制作可能。プリザーブドフラワーを添えたものもある。山岡さんは「何十年と保存が利くので、大切なペットとの思い出を長く感じることができる。飼い主もペットも幸せな気持ちになってほしい」と語った。

2023年11月25日付856号1面から

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