国の文化審議会は11月24日、三重県名張市鍛冶町の名張川沿いに建つ老舗料理店「清風亭」の玄関棟と客室棟を国の登録有形文化財(建造物)に新たに登録するよう文部科学大臣に答申した。登録されると、市内の国の登録有形文化財(建造物)は計33件となる。
清風亭は、1914(大正3)年に料理旅館として創業。同市出身の江戸川乱歩をはじめ、松本清張、今東光、開高健、陳舜臣、瀬戸内寂聴(当時晴美)など多くの文人が訪れた。
40年ほど前に宿泊業はやめ、現在は川魚料理専門店として布生香代子さん(77)、長女の岩並淑子さん(51)、次女の布生雅子さん(49)の3人が、4代目、5代目として切り盛りしている。提供するのはうなぎ料理が中心で、他に乱歩が好んで食べたというコイのみそ煮込み「鯉こく」も名物だ。
玄関棟は木造二階建て切妻造平入桟瓦葺きの建物で、1階の出格子と2階の格子窓が通りに面する。玄関を入ると、料理旅館の趣を残す階段があり、客室棟へと続く。階段となりの部屋には、文人たちが残した色紙などが飾られている。
中庭を挟んで並ぶ客室棟は木造二階建て切妻造桟瓦葺きの建物で、1階は6畳の客室2室と厨房など、2階は10畳の客室が3室あり、ふすまを外すと30畳の大広間になる。南側の縁側はガラス格子窓になっており、名張川の景色を一望できる。
2つの建物の正確な建築年は不明だが、創業時には既に建っていたという。1959年の伊勢湾台風で被害を受け玄関などを一部改修しているが、全体的に今も建築当時の趣を色濃く残している。
調査を担当した県文化財保護指導委員の岩見勝由さんは「客室は名張川の眺望を大切にしたしつらえ。かつて川沿いに料理旅館は何軒もあったが、建築当初の風情を残して現役でやっているのはここだけ」と話す。雅子さんは「戦争や台風があっても建て直すことなく、日々暮らしてきたことが文化財になることにつながったのかなと思う。先祖に感謝し、いつまでもこの建物を残せるよう努力したい」と話した。