【約150種の有用植物を導入し、緑いっぱいの森さんの農園=名張市西原町で】

 ただの茂みのように見えるこれが「食べられる森」!? 三重県名張市西原町のテレビディレクター、森哲也さん(41)が、自宅近くの約1000平方メートルの水田跡で、生物多様性を豊かにしながら作物を収穫する協生農法に取り組んでいる。果樹や野菜、薬草など約150種類が育ち、全国から見学者が訪れている。

モーウイ(左)とツルクビカボチャを手に笑顔の森さん=同

 協生農法は、人為的に多種多様な植物を密生混生させ、耕さず、肥料や農薬も使わず、虫や鳥などを呼び込んで生態系の機能を高めて作物を実らせる露地栽培法。伊勢市の農園で考案され、ソニーグループの研究所が国内外で実証実験を行っている。砂漠化や貧困などの問題解決につながる持続可能な新農法として、注目されている。

 森さんは大学卒業後に番組制作会社に入社し、東京と名古屋で勤務した後、2015年にフリーランスとして独立。地元名張市を拠点に、生き物の営みを紹介する自然番組の制作などを手掛け、19年には、紀北町の銚子川を題材にしたNHK番組で科学ジャーナリスト大賞を受賞した。

 17年春、変わった農法に取り組んでいると聞いた伊勢市の農園を訪問し、衝撃を受けた。協生農法発祥の農園で、草木が茂るジャングルのような状態でありながら、さまざまな野菜や果物が実り、周囲にはチョウなど多様な昆虫が生き生きと舞う光景があった。森さんは「生命の楽園だと感じた」と振り返る。

 森さんの家は代々農業に携わってきたが、自身は距離を置いてきた。草や虫、鳥などを排除し化学肥料や農薬を使用する従来の農業に対して、「ありがたいもの」とは受け止めつつも、若干の違和感を感じていたからだ。

 ところが、協生農法は食料生産と生物多様性の両立を実現し、生き物は本来の姿で生命をつなぐ。高齢化や過疎化などで増加する中山間部の耕作放棄地を「宝の山に変えることができる」とも感じた。

耕作放棄地を「宝の山に」

 森さんは間もなく、長年何も作付けしていなかった水田跡に果樹や野菜など約30種を植え、半分協生農法、半分ディレクターの「半農半D生活」を開始。初めは土地の水はけの悪さから、根腐れしてしまう失敗を経験した。だが諦めずに土を盛り、水路を作り、水辺を好むマコモなど植物の種類を増やすなど試行錯誤を重ねた結果、3年ほど経った頃から安定して生育するようになったという。

 6年経った今年10月中旬は、顔よりも大きなツルクビカボチャ、沖縄の伝統野菜モーウイを始め、ムクナ豆、大豆、レッドヌードルビーン、オクラ、トマト、ナス、ピーマン、イチジク、アケビなど、数えきれないほどの作物が実りを迎えていた。

虫や鳥、カエルも‶スタッフ” 食物連鎖で調和する農園

虫を腹いっぱい食べ、イチジクの実の上で休息するアマガエル

 「麦わら協生農園」と名付けた森さんの農園では、約2メートル間隔の果樹の周りに野菜や薬草などが隙間なく育つ。肥料を使わないため生育は時間を要するものの、年中、作物が収穫できる。

 これからの冬は大根や白菜、キャベツ、ミカンなどが収穫でき、春にはエンドウやベリー類などがシーズンを迎える。ヤブカンゾウやニラなど繰り返し収穫できる多年草を導入することも、手間を省くポイントだという。

 虫を排除しないため、キャベツの外葉をアオムシが食べたり、柑橘類の木にアゲハチョウの幼虫が集まったりするが、別の虫が捕食し、更にカエルや鳥などが集まる。土中でもミミズや微生物が活動し、多様な食物連鎖がバランスよく栄養を土に還すことにつながる。農園を一緒に作る存在を、森さんは雑草も含め“スタッフ”と呼んで愛情を注ぐ。

伊賀地域の耕作放棄地

 伊賀・名張両市の農業委員会によると、22年度末時点の伊賀地域の耕作放棄地は山林化した土地も含めて計約1600万平方メートル(阪神甲子園球場415個分)。森さんは今後の夢として「伊賀地域にある耕作放棄地を、生命が調和する楽園に生まれ変わらせたい」と語る。協生農法講師候補生として、農法の普及活動にも取り組んでいる。

 麦わら協生農園の見学方法は、森さんのブログ「自然と暮らそう麦わら日和」(http://mugiwaradonguri.com/)を確認する。

 年内にはTBSの番組「報道特集」で協生農法が取り上げられる予定で、森さんの農園も登場するという。

2023年10月28日付854号1面から

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