【9月28日に渓谷内で撮影されたニホンカモシカ(赤目四十八滝渓谷保勝会提供)】

 渓谷の斜面で動く、黒い毛に覆われた動物。ひえっ、熊かも!? でもご安心を。これは国の特別天然記念物・ニホンカモシカだ。三重県名張市の赤目四十八滝渓谷入口から約1キロの竜ヶ壺付近で9月28日に撮影された。

カモシカをアピールする菰野町の観光ポスター(菰野町提供)

 ニホンカモシカは険しい山岳地帯に生息するウシ科の草食動物で、成獣の体長は最大約1・5メートル、体重は約40キロで、雄雌とも頭に2本の角を持つ。毛色は個体差があり、黒っぽいものから白っぽいものまでいる。

 渓谷を管理する赤目四十八滝渓谷保勝会に9月27日、観光客の年配女性から「熊らしき黒い動物が動いていた」と目撃情報が寄せられた。同保勝会は28日から10月1日まで一部入山規制を行い、市の職員と共にが渓谷内を調査。情報のあった竜ヶ壺付近では、黒毛のニホンカモシカが確認された。

調査で熊の痕跡確認されず

 同保勝会によると、ニホンカモシカはこれまで渓谷内でたびたび目撃されてきた。一方、調査では熊の痕跡(足跡、ふん、爪痕など)が確認されなかったため、ニホンカモシカを熊と誤認した可能性が高いと判断し、2日に入山規制を全面解除した。

 県内では、鈴鹿山地と紀伊山地の2つのカモシカ保護地域が設定されている。鈴鹿山地の保護地域に一部設定されている菰野町は、「誰が、鹿や。」のキャッチコピーが添えられた観光ポスターを2019年に制作し、話題になった。

 県総合博物館の学芸員、田村香里さんによると、保護地域外の赤目四十八滝渓谷にニホンカモシカが出没するようになったのは近年になってからで、同じ草食動物のニホンジカの個体数が増え、縄張りを追われたことが要因の一つと推測されている。黒っぽいニホンカモシカを熊と見間違える出来事は、県内で時々起きているという。

熊に遭遇しないための対策を

 赤目四十八滝渓谷での今回の目撃はニホンカモシカの誤認だった可能性が高いとはいえ、市内では昨年、ツキノワグマが青蓮寺の香落渓で通行車両のドライブレコーダーに記録され、赤目町一ノ井では足跡が見つかった。山に入る際に熊鈴やラジオなど音の出るものを身に着け、遭遇しないための対策をとることは欠かせないだろう。

2023年10月14日付853号2、3面から

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