【上野公園にある表彰場所の俳聖殿前=伊賀市上野丸之内】

 三重県伊賀市と芭蕉翁顕彰会は10月5日、芭蕉翁献詠俳句の特入選句を発表した。特選は67点で、命日にあたる12日に開かれる第77回芭蕉祭の式典会場で表彰される。

 応募総数は3万5371点で、昨年度より414作品減った。部門別では▼一般の部7263句(対前年度比1445句減)▼テーマの部1613句(213句減)▼児童生徒の部2万3763句(2132句増)▼連句132巻(22巻減)▼絵手紙1021点(102点増)だった。

 1989年度から募集を始めた英語の部は773句が寄せられ、過去最多の投句数だった昨年度よりも917句減った。海外からの投句は20か国減って14か国で、投句数が昨年度の上位だったインドやスリランカ、ブルガリア、ドイツからは無かった。

竹中栞那さんの作品

 学校全体で意欲的に創作活動に取り組んだ「三重県知事賞」には、地元の伊賀市立柘植小と上野南中が選ばれた。また、同市内の小学校10校と中学校1校から806点の応募があった芭蕉祭のポスター原画は、伊賀市立青山小4年の竹中栞那さんの作品=左写真=が最優秀賞に選ばれた。

 式典前日の11日午後1時30分からは「芭蕉祭記念講演会~歌枕俳枕講座」が同市上野丸之内のハイトピア伊賀5階多目的大研修室で開かれる。講師は今年度の文部科学大臣賞に選ばれた「蝶夢全集 続」(和泉書院)の編著書を代表し、佐賀大名誉教授の田中道雄さん(91)が「五升庵蝶夢の生涯とその事績」の演題で話す。要事前申し込みで、定員120人。聴講無料。

 講座の問い合わせは市教育委員会生涯学習課(0595・22・9679)へ。

 各部門の特選作品は次の通り(敬称略)。

〈一般の部〉
【稲畑廣太郎選】
せせらぎに音色重ねて河鹿笛 (津市、紫雲女)
沈みゆく太陽捉へ曼珠沙華 (岡山市、伴明子)

【井上弘美選】
丹波太郎あすは次郎も連れてくる (東京都国分寺市、湯口昌彦)
春の夜の金泥に富士うかみたる (千葉県習志野市、鈴木禮子)

【小川軽舟選】
水打つて午後の診療始まりぬ (東京都江戸川区、坂本昭子)
はらからと話し尽して黙涼し (堺市、濵田昭)

【小澤實選】
花野上空T字尾翼の軍用機 (東京都杉並区、余村光世)
草刈機自走す石を弾きつつ (東京都板橋区、望月とし江)

【櫂未知子選】
兄が跳び弟が跳びこどもの日 (伊賀市、森永元希)
山裾に戸毎のたつき秋灯 (伊賀市、田端昭子)

【坂口緑志選】
雁渡る城に芭蕉の羈旅の笠 (名古屋市、駒木逸歩)
一山は忍祖の砦鷹巣立つ (伊賀市、下村哲朗)

【西村和子選】
新涼や座敷箒を買ひ替へて (愛知県西尾市、齋藤佳織)
香水の一滴心律したる (神戸市、齊木富子)

【長谷川櫂選】
雲の峰崩れて暗き太平洋 (兵庫県猪名川町、小林恕水)
砂漠とふ地球の裸体夏の月(埼玉県志木市、真尾公子)

【星野椿選】
一隅に虚子之塔あり天の川 (兵庫県三木市、岡本やすし)
翁生家世塵を寄せぬ白障子 (伊賀市、森中幸枝)

【堀本裕樹選】
蝌蚪の水借りて一日の鍬洗ふ (横浜市、沼宮内薫)
道をしへ一本道を教へけり (愛媛県新居浜市、大賀康男)

【正木ゆう子選】
どの岩も名のある岬寒怒濤 (北海道登別市、袖山功)
霧と霧交はる峠越えて伊賀 (鈴鹿市、高尾のり子)

【三村純也選】
鮑捕る担ひ手なしと海女嘆く (伊賀市、澤井重正)
早乙女の結の揃ひの赤襷 (大阪府枚方市、伊瀬知正子)

【宮坂静生選】
熊かへす空砲ひとつ水芭蕉 (東京都品川区、本多遊子)
銀河濃し奥能登統ぶる須須神社 (横浜市、有手勉)

【宮田正和選】
海の紺けふ深くして初茄子 (志摩市、松村正之)
荒行の終の蓬髪山笑ふ (埼玉県川口市、滝本史代)

〈テーマの部 「和」〉
【片山由美子選】
雪国の雪の白さの手漉和紙 (長野市、木原登)
合性といふは酒にも木の芽和 (岐阜県多治見市、荻原正三)

〈英語の部〉
【河原地英武選・訳】
first snow morning …
holding a dead dog
road to crematorium

初雪の朝茶毘に付す犬腕に
(Aya Takao、Japan)

silence of birds
the steel bridge quivers
in the heat

鳥黙す極暑に鉄の橋震へ
(Nina Kovacic、Croatia)

〈児童・生徒の部〉
【保育所(園)・幼稚園、小学1~3年=岡森競一、坂石佳音、服部登紀子、東構東子、福山良子共選】

みずてっぽうにんじゃみたいにかくれうち (伊賀市、いなこ保育園、福井優月)
きゃんぷじょうぎゅうぎゅうづめのおほしさま (伊賀市、ゆめが丘保育園、梶川丈志郎)
すいかきるぼくはでっかいままたべる (名張市、蔵持こども園、森永彩央)
ぼくのあしうきわのしたはひろいうみ (伊賀市、上野南小1年、鈴木敬士)
なつのそらきいぱあのぼくあせだくだ (伊賀市、成和東小1年、ダ シルバ ヨナタン)
ばいくのりあせべちゃべちゃのへるめっと (伊賀市、久米小1年、土井美陽)
キャンプまえじざいむすびをもうとっくん (伊賀市、友生小2年、荻田陽平)
ザリガニをつかまえつかまえ夕ぐれだ (伊賀市、府中小2年、福森護)
あせものせスリーポイントシュートする (伊賀市、壬生野小2年、金谷琉聖)
父さんのギターにまけるなヒキガエル (伊賀市、上野西小3年、北村連)
植木ばちトカゲのしっぽすっときえ (伊賀市、三訪小3年、前川心優)
うちわとりやっととれたよひとあおぎ (伊賀市、西柘植小3年、中川知優)

【小学校4~6年=佐々木経子、島井節、下村哲朗、中西紀歩、福森志津子共選】
オニヤンマ自分のしっぽかんでいる (伊賀市、柘植小4年、稲森竜輝)
どこへいく花火追いかけ首反らす (伊賀市、阿山小4年、福森帆乃)
蓮ひらくてらのいりぐちおでむかえ (伊賀市、大山田小4年、東出京夏)
竹あかり暑さわすれた城広場 (伊賀市、上野西小5年、田中広翔)
そめたいないろんな色にかきごおり (伊賀市、久米小5年、土田あいみ)
おにぎりをみんなで食べた川あそび (伊賀市、阿山小5年、シンサト ヒデキ)
いきいきと風鈴おどる伊賀列車 (伊賀市、上野東小6年、西山誠剛)
夏うぐいすこ線橋から空へ飛ぶ (伊賀市、柘植小6年、堀川乃彩)
逆転の一打伸びゆく夏の空 (伊賀市、上野西小6年、中山吏人)

【中学校=岡島千秋、松村咲子、森岡秀美、山村勝子共選】
夕立の白く沸き立つアスファルト (伊賀市、緑ヶ丘中1年、長井鈴々)
くやしくてそでで汗ふき素振りする (伊賀市、緑ケ丘中1年、井上友太)
誘われただけでうれしい夏祭り (伊賀市、阿山中1年、中尾碧衣)
夏の朝スパッと解けた方程式 (伊賀市、崇広中2年、栁美々子)
見えますか戦禍の国で天の川 (伊賀市、島ヶ原中2年、井村天喜)
先輩と互角の試合花は葉に (福岡県古賀市、古賀東中2年、大塚凜和)
釣竿の先に海月と白い波 (伊賀市、緑ヶ丘中3年、武村悠登)
野も山も深く溺れる梅雨の時期 (津市、豊里中3年、村山蔵之介)
夏至の日やゆっくり歩く通学路 (福岡県古賀市、古賀東中3年、太田幸来)

【高校=岡島千秋、松村咲子、森岡秀美、山村勝子共選】
指揮棒のリズムと共に夏はじく (三重県、上野高校1年、粒來啓太)
あと二分解けぬ問題五月雨 (東京都、中央大学杉並高校2年、砂押海士)
朝若葉慌て詰め込む手弁当 (三重県、紀南高校3年、下川美沙姫)

〈連句の部〉
半歌仙『這ひ出よ』の巻 滋賀県 
                谷澤節 捌

這ひ出よ飼屋が下の蟾の声     芭蕉翁
 土間の隅には行水の桶        谷澤 節
眠たげな頑是無き児を背に負ふて   松本奈里子
 散歩がてらに九九を教える     もりともこ
満月の湖に澪曳く丸木舟           節
風のかたちに揺れる葦原           里
名刹の胎内巡り秋深め            と
 ミケランジェロのピエタ美し        節
ふと漏れた言葉の意味を計りかね       里
 寝物語は甘く切ない            節
にせものの家系図広げしたり顔        と
 寒禽てらす月は青ざめ           里
サイレンの音に飛びだす火事明かり      節
 一番乗りは貧乏神か            と
肩ならべ親父とくぐるのれん酒        里
 浅蜊佃煮江戸の土産に           節
花筏迷路のような堀をぬけ          と
 見はるかす野に蓬摘む人          里

   令和五年七月十五日 満尾 文音

〈絵手紙の部〉
【森田満枝、福北辨選】


(伊賀市、迎出美代子)

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