【オリーブを収穫する福地さん(右)(提供写真)】

 「良い意味で、“ゆるい空気感”が居心地良かった」。2年前、三重県名張市桜ヶ丘に移住してきた福地康弘さん(46)。経営する会社がある東京とを行ったり来たりしながら、名張での生活を満喫している。

 仕事関係の勉強会に参加した約8年前、訪れた大阪で同じ会に参加していた名張在住の人たちから「隠街道市というイベントを手伝ってくれないか」と誘われた。突然の“無茶ぶり”に戸惑ったが、一緒に行っていた大阪の友人も行くというので、「東京から渋々出向いた」そう。

 名張に到着すると「懐かしい感覚に襲われた」という福地さん。会場ではソーセージやたこ焼きを売り、イベントを終えると皆で酒を酌み交わし、楽しく過ごした。帰京すると、今度は「秋祭りに来ないか」と誘われた。祭りで奉納される獅子神楽を見たい思いもあり、再び名張を訪問した。

 一連の“名張体験”を機に、年に3、4回は訪れるようになり、東京で体験できないタケノコ掘りなどを楽しむうちに名張の土地や人に魅かれていった。

 「都会暮らしでの虚無感や人との関係の希薄さから、自分のやりたいことは東京にはない。自分を変えるためにも」と移住を決意。更に福地さんは「今思うと最初に感じた感覚は『帰って来た感』だった気がする」と振り返る。

 生活に車が必要になり、歩数は減ったが、近くに借りた100平方メートルの畑で汗を流す。最初の年は獣害被害に遭い、ほとんど収穫できず「心が折れた」そうだが、今年は対策も立てて再チャレンジ。無農薬で育てたキュウリやトウモロコシはとてもおいしかったそうだ。

 地元の「能を考える会」「名張乱歩実行委員会」など、地域起こしの会合にも積極的に参加し、今春には地元の人の助けで青蓮寺地区にオリーブの木を10本植えた。年齢の違う世代との交流も増え、畑を手伝ってくれる“畑友″もできた。リモートでできない仕事があれば東京にも行くが、名張での暮らしが中心だ。

 今まで触れなかったものに触れ、自身も変わりつつあるという福地さん。「身近なものや人と関わって役に立つことがつながっていけば」と今後の展開も楽しみにしている。

2023年9月23日付852号6面から

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