【開設したギャラリーで今後の構想を語る藤木さん=名張市元町で】

 腎臓がんを患い、経営していた飲食店の閉店を余儀なくされた三重県名張市元町の藤木泰之さん(52)は、「地元を盛り上げる活動を続けていきたい」と、残った店舗を活用したアートギャラリー「Gallery元町」を立ち上げた。

 京都で過ごした大学時代は、飲食店でアルバイトをしていた。料理人の道に本腰を入れ、大学を中退して約9年間、腕を磨いた。その後、自分の店を持つことを夢に、東京や名古屋で働いて開業資金を貯め、店の開設に合わせて帰郷。1年ほどかけて探した趣ある古民家を改装し、2019年6月にイタリアンレストランを始めた。

 開店以降は半年先の予約が埋まるほど好評で、多忙な毎日を送った。一方、体調を崩すことが多くなったそうで、痛みはなかったが、体が動かなくなるなどの症状も。疲労が原因と楽観していたが、病院の検査でがんが判明し、20年夏の入院を機に、やむを得ず休業することになった。

 手術で腎臓の大部分を摘出したことにより、1日当たりの塩分摂取量を2グラム以下に抑える必要ができた。「商売としている以上、味見もできずに料理を提供することはできない」と、最終的には店を畳む決断をしたという。

 料理ができなくなり、一時は気分も落胆したが、残った店舗を役立てる方法を考えることにした。そんな中、知人から「良い雰囲気の店だから、ギャラリーにしてみたら」との一言を受け、今年3月から開設に向けて準備を始めた。

 全国の美術館巡りが好きな藤木さんは「名張はアート作品を展示する場が少ない」と思っていたそうで、「地域の人たちが気軽にアートに触れる機会を増やそう」と決めた。

無機質な空間

 和の雰囲気が漂うギャラリーは木造2階建てで、延床面積は約50平方メートル。しっくいの白い壁に絵画などを飾る想定で、立体作品は中央の机やカウンターに。レストラン時代に天井へ設置した照明器具はそのまま活用。レール状を自由に動かせる仕組みで、作品に合わせて位置や角度を調整できる。店内のグラスやボトル、ポスターなどは全て片付け、展示作品の妨げにならないよう無機質な空間づくりにこだわった。

 記念すべき1回目の展示は9月30日と10月1日、兵庫県在住の美術家・升田学さんによる針金アート作品展「ヒトスジ」。今年3月に奈良県であった展示会で縁があり、出展がかなったそうで、複雑な形のオブジェやイヤリングなどのアクセサリーが多数並ぶ。入場無料。

 藤木さんは「作家たちと相談しながら居心地の良い場所を作っていきたい。地域のイベントや音楽ライブなど、市内外の出展者に広く活用してもらえれば」と展望を語った。

2023年9月23日付852号2面から

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