ルートを考えながら定められたチェックポイントを巡る競技「オリエンテーリング」は、野外活動などで経験した人も多いはず。地図を見ながらオフロード用自転車(マウンテンバイク)で1分1秒を争い野山を駆け巡る「マウンテンバイクオリエンテーリング」(MTBO)の日本代表として、今夏13回目の世界選手権に臨むのが、三重県名張市桔梗が丘5番町の地方公務員、加納尚子さん(53)だ。
オリエンテーリングは、地図上に記載されたチェックポイントの間をどのルートで進むか考え、走破タイムを競うもので、自らの足で進む「フット」、マウンテンバイクやスキーで進む種目などがある。国内の競技人口は1万人ほどで、このスポーツの発祥地であるヨーロッパには多くの選手がいるという。
加納さんは高校までは剣道に親しみ、本格的にスポーツに取り組んだことは無かったが、大学では「新しいことに挑戦してみよう」とオリエンテーリングのサークルに入った。考えたルートが当たった時の達成感が心地良く、初チャレンジで同じコースを回った男子学生に勝ったこともあったといい、3年時にはインカレで6位入賞。就職後も奈良や京都を拠点とする複数の社会人サークルで活動を続けている。
国際大会が開かれるようになった2013年ごろからMTBOをメインに取り組むようになり、その年に全日本大会でいきなり優勝。世界選手権の日本代表メンバーにはこれまでフットで8回、MTBOで12回出場し、13年にはフット全日本大会で優勝している。以降、MTBOをメインに取り組むようになり、今年5月のマスターズMTBO世界選手権(スロベニア)ではロングディスタンスの50歳から55歳の部で優勝するなど、出場した4種目全てでメダルを獲得した。
「小学校の体育では持久走だけ成績が良かった」と苦笑するが、若いころからアスリートタイプだったわけではないという。現在は仕事の傍ら、毎日最低30分は走り、室内で漕げるバイクやアプリを使ってほぼ毎日トレーニングに励んでいる。3年ほど前からは、自転車仲間からの勧めで、脚力の維持・強化のために陸上の「名張クラブ」へも週1回通い、汗を流している。
大会で競技用の地図が配布されるのは競技開始の直前という難しさもあり、バイクの技術や体力だけでなく、論理的な思考力や的確な判断力も求められる。開催地での事前合宿や下見も行うが、「ルートを迷ったり間違えたりしても、そこからいかに立て直すか、小さな正解を積み重ねていく面白さがある」。
競技が盛んなヨーロッパは「自転車が生活に根付き、文化として愛されている」と感じるそうで、現在は日本オリエンテーリング協会の理事としても競技の普及に力を入れる。「世界的に確立されたトレーニング法や便利なトレーニングアプリもあり、誰もが情報を得やすい時代。この競技に向いている人や興味のある人はぜひ取り組んでみてほしい」と裾野拡大に向けた思いを語った。
今年の世界選手権は8月20日からチェコで開かれ、加納さんはスプリント、ロング、リレーなど計5種目に出場する予定。
2023年7月29日付848号1面から