【趣ある数馬茶屋と、店先に立つ井上さん=伊賀市小田町で】

市が6月末契約終了を通告

 「伊賀越の仇討ち」の舞台となった三重県伊賀市小田町の鍵屋の辻史跡公園にある茶店「数馬茶屋」が、閉鎖の危機にある。建物を所有する市から、耐震性不足を理由に6月末での契約解除を告げられた店主の井上秀子さん(70)は「長年親しまれてきた数馬茶屋を、ここで途切れさせるのはつらい」と話す。

来店客をもてなす井上さん=同

 伊賀越の仇討ちは1634(寛永11)年11月7日、弟の源太夫を殺された岡山藩士の渡辺数馬が、剣士で義兄の荒木又右衛門に助けを求め、待ち伏せていた鍵屋の辻で弟の仇の河合又五郎らを討ったとされる事件。曽我兄弟の仇討ち、赤穂浪士の討ち入りと並ぶ「日本三大仇討ち」の一つに数えられている。事件を題材にした歌舞伎や浄瑠璃などが江戸中期以降人気を博し、舞台の鍵屋の辻には多くの人が訪れた。

 1938年に県史跡に指定された鍵屋の辻は公園として整備され、決闘に関する資料を収蔵する「伊賀越資料館」も存在。公園内にある数馬茶屋は木造平屋建て約70平方メートルで、仇討ちの際に数馬が待ち伏せした茶屋を再現したものとされている。29年に建てられ、戦時中は疎開した国文学者が居住し文学講座が開かれた。

 市の所有になったのは45年8月からで、観光客の無料休憩所を経て、61年から民間に貸し出し、茶店が営まれてきた。文学研究者や放送作家、歌舞伎役者など著名人も数多く来訪し、フォークシンガーの西岡たかしさんの曲「上野市(うえのまち)」では「あの娘と歩いた数馬茶屋」のフレーズも登場する。

店主「歴史、途絶えさせない方法を」

 井上さんは高齢になった前店主から2016年に店を引き継ぎ、市内外からの来店客にわらび餅などの甘味や伊賀牛を使った料理などを提供。火曜と第2、第4水曜を除く午前10時から午後4時まで、営業を続けてきた。ところが市は昨年12月、賃貸借契約を今年6月末で解約すると通告。建物の老朽化により、震度6強以上の揺れで倒壊する可能性が高いとする診断結果が出たためだった。公園内の伊賀越資料館も、建物の老朽化などを理由に19年から休館している。市によると、数馬茶屋は6月末で閉鎖するが、その後の具体的な対応はまだ決まっていないという。

 近所に住む常連客の女性(82)は「茶屋がなくなったら寂しい。市外からもお客さんが来ているので、何とかならないものか」と惜しむ。井上さんは「閉鎖したら鍵屋の辻を訪れる人はますます少なくなる。歴史ある場所を守るため、途絶えさせずに済む方法を市には示してほしい。一度閉めてしまえば傷みも進み、取り返しがつかなくなるのでは」と話した。

 問い合わせは同店(0595・23・9103)まで。

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