映像配信 文化継承にも
若い兄弟が立ち上げた、デジタル戦略を手掛ける合同会社「わたし館」(三重県名張市富貴ケ丘)が、地元と東京に活動拠点を置いて最新のデジタルサービスを提供し、注目されている。
同社代表は、兄で神奈川大学工学部在学中の石原優樹さん(25)。4年前、弟の樹さん(24)に声を掛け起業した。樹さんも同社の役員を務めながら都内のデジタルハリウッド大学大学院で学ぶ学生で、昨年卒業した同大学では映像とビジネス企画、プログラミング、IT技術を社会に融合させる手法などを学んだ。
石原さんは起業と同時期に、世間で注目されつつあったドローンに目を付け、操縦スペシャリストの資格を取得した。
今年1月には最新の「映像転送技術」を導入。この技術は、ケーブルを使わずにカメラの映像を離れた場所へ転送し、更に遠隔操作できるもの。これにより、大勢の人混みでの演説や広大なグラウンドでの試合、マラソンなど移動しながらの映像を、複数台のカメラを使ってライブ配信を可能にした。
次に導入したのは、昨年末に日本でサービスが始まった通信衛星スターリンクを使った「ライブ配信技術」。スターリンクは米国の民間企業「スペースX」が運用している衛星で、世界中のあらゆる場所でのインターネット通信を可能にするサービスだ。
こうした最新技術をいち早く導入できるのは「日本の研究者、落合陽一さんが特任教授を務めているデジタルハリウッド大学と同大大学院の教授たちから常時最新情報を入手できるから」だという。
昨年7月の参議院選挙で、政党のデジタル戦略チームに選ばれ、関東エリアの大都市数十か所で、野外街頭演説のライブ配信などを担当した。また、東京・赤坂の明治記念館での催しでは、双方向型ライブ配信により、全国50か所の政党支部を結ぶイベントを成功させた。
石原さんは「当社は首都圏での仕事がメインで、名張は新しい技術を試す場。テストを繰り返し、ノウハウを蓄積している」と話している。
能楽の継承にも一役「全国に波及できる」
樹さんは昨年、大学の卒業制作で「能と名張と継承」をテーマに映像作品を作り、最優秀賞を受賞した。「生まれ故郷の名張は観阿弥創座の地でもあり、能楽には高い関心があった。後継者が不足し、このままでは日本の伝統文化が廃れてしまうという危機感もあり、継承の取り組みを名張で取材し、映像作品に仕上げた」と話す。
同社では、昨年11月に名張能楽振興会のLINE公式アカウントを立ち上げ、2月にあった「新春謡曲仕舞大会」では、初のライブ配信をスマートフォンで手軽に鑑賞できるようにした。
石原さんは「伝統文化とデジタル技術の融合により、文化の継承に効果が出れば、全国の多くの文化団体に波及できる。社会貢献とともに、今後のビジネス拡大につなげていきたい」と話している。
同社公式ホームページ(https://www.watashikan.net/)では活動について紹介している。
問い合わせは同社(080・9528・5052)まで。
2023年2月25日付838号20面から