【山辺高校山添分校=奈良県山添村】

 昼間定時制(4年制)の山添村立奈良県立山辺高校山添分校(奈良県山添村大西)には農業科と家政科があり、同村内出身者はもちろん、三重県伊賀・名張両市を含む近隣市町から路線バスなどを利用して多くの生徒が通学する。創立から七十余年、少子高齢化が進む山間地にある「本州唯一の村立高校」では、小規模ならではの教育環境や地域に密着した取り組みなど、特徴を生かした学びが行われている。

広報紙「チーム山添分校ニュース」

村内へ広報紙配布

 今年度から学校の出来事や授業の様子などを広報紙「チーム山添分校ニュース」にまとめ、年3回、村広報への折り込みなどで村内の各家庭へ配布している。「伝統ある山添分校で成長する生徒の様子を知ってほしい」との思いから始まった企画だ。

 「学校の取り組みを発信することで、生徒や保護者、地域の人たち、教職員、皆がうれしくなるはず」。昨年6月の第1号は吉岡淳教頭を中心に、9月の第2号と12月の第3号は教職員が連携して編集・発行を進めた。将来は生徒が主体的に取材・編集・撮影などに携われる仕組みを整えていきたいそうだ。

 昨年末リニューアルした公式ウェブサイト(http://yamabun.blogdehp.ne.jp/)上部には「本州唯一の村立高等学校」と大きく表示され、トピックスの更新頻度も増した。吉岡教頭は「新しいことに取り組む不安や大変さはあるが、生徒たちの未来のために自分たちができることは何か、村や地域の皆さんとできることは何かを考えていきたい」と展望を話した。

 山添村では現在、同分校の村立本校化に向けた検討が進められている。


〈農業科〉プロセス面白く経験が身に 年2回人気の野菜苗販売会

種まき前にセルトレーに土を入れる生徒たち(同)

 特産の大和茶を始め、地場産業の担い手を育てることは分校設立当時からの大きな目的だ。農業科には4学年26人が在籍し、授業以外に部活動(農業クラブ)も盛んだ。校内には実習用のガラス温室1棟とビニールハウス3棟、隣接地に計400平方メートルの畑がある。

過去の野菜苗販売会の様子(提供写真)

 毎年4月と9月に開く、生徒たちが種から育てて発芽させた野菜苗の販売会は、育てやすさや1株50円という価格もあり、「校内に長い車列ができ、3000株が開始2時間で完売する」ほどだ。現在は新年度の4月14日の販売会に向け、1・2・3年生が準備に取り掛かっている。

発芽機導入で改善

 品種は、出来るだけ新しく、かつ栽培しやすいものを選んでいるといい、今回はキャベツ、ブロッコリー、レタス、ナスなど計12種類を販売予定。特に人気が高いのはトマトで、ミニトマトから実の大きいものまで3種類を用意している。

 通常の授業だけでなく、放課後や長期休業中もハウス内の温度や水の管理、施肥などに気を配る。昨年度導入した発芽機のおかげで発芽率や開花率が大きく改善したそうだ。

 科長の山口宏樹教諭は「数字などには表しにくい、経験してこそ身になることも多い。こうしたプロセスを面白いと思ってもらえるよう日々取り組んでいる」、1年の石本智博さんは「自分たちが育てる苗を買いに来てほしい」と話していた。

 進路は農業分野だけでなく、三重県内のさまざまな企業へも人材を輩出している他、近年は「なら食と農の魅力創造国際大学校」(桜井市)への進学者もほぼ毎年出ている。


〈家政科〉羊毛からオリジナル服まで 達成感が力に 「得意」見つけて

今春卒業の生徒作品(提供写真)

 「家政」とは、家での生活に関わるさまざまなことを表す言葉だが、その範囲はとても広い。

 「いろんなことを経験する中で、自分が得意なことを見つけてほしい」。4学年10人が学ぶ家政科には、フードデザイン、保育基礎、ファッション造形、服飾手芸などさまざまな専門科目がある。

 他に無い特徴の一つが「ホームスパン」だ。羊毛をほぐして洗い、手紡ぎした糸を染色して機で織り、1枚の布を完成させる。更に自分だけのオリジナル衣服に仕立てるまでの一連の工程が経験できる。伝統的に培われてきた技術や産業を知ることはもちろん、工程を通じ発想力や集中力を磨くのも狙いの一つだ。

コンテスト入賞も

 授業では、1年はマフラー、2年はストール、3年は袖の無い服を作り、4年時には集大成として、ジャケットやコートなどを仕上げる。「クリエイティヴコンテスト」(全国高等学校家庭クラブ連盟主催)の入賞者もおり、自身と姉が着るウエディングドレスを卒業製作にした生徒もいた。

 在学中に一度は、村内にある観光牧場「めえめえ牧場」(同村伏拝)を訪れ、羊の毛刈りを見学するそうで、科長の榊充世教諭は「自分にはどんなことができるか考え、さまざまな工程を経て形になったことがやりがいになる。これまで引き出されてこなかった能力が現れ、頑張って取り組む姿勢や逃げない気持ちが達成感となり、生きていく力につながってくれたら」と願っている。

 進路は家政分野だけでなくさまざまな企業に広がっており、昨年は天理大への進学者もいるなど、進学を希望する生徒が増えてきているという。

2023年2月25日付838号1、4面から

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