【伊賀市平田に新設するグループホーム「オルハナ」の外観イメージ(提供写真)】

「オルハナ」8月開設 重度の知的障害者に対応

 社会福祉法人名張育成会(本部・三重県名張市美旗中村)は、伊賀市平田に重度の知的障害者に対応するグループホーム「オルハナ」を今年8月、開設する。同法人は1991年から伊賀地域でグループホームの設置を進めており、運営数はオルハナの完成で17か所、伊賀市内2か所となる。

 グループホームは少人数の障害者が共同で生活する場で、職員が食事や掃除、入浴など日常生活をサポートする。重い障害のある人が「親亡き後」も地域で暮らし続けるための受け皿としても、ニーズが高まっている。

 オルハナは軽量鉄骨平屋建て2棟から成り、延床面積647・66平方メートル。市大山田支所北側のテニスコート跡地(1482・25平方メートル)を市から借りて建設する。2棟はいずれもハワイ語で、精神的に支え合う家族や仲間を意味する「オハナ」、皆で一緒に楽しみリラックスする「ルアナ」と名付けられ、2つの言葉を合わせて事業所名とした。共同生活援助に短期入所を併設し、定員は各棟9人(うち短期入所2人)となる。

 同法人によると、伊賀市内では行動障害など重度の知的障害者を受け入れるグループホームがまだ十分になく、同法人が名張市内で運営する入所施設には、伊賀市から片道約30分をかけて短期入所に通っているという。こういった状況を受け、3年前ほど前にグループホーム新設を構想し、今回実現することになった。これまでは一軒家やマンションなど既存の建物を活用するなどして設置を進めてきたが、今回は初めて同法人が一から建設する。

 新設に向け昨年4月、法人内でプロジェクトチームが発足。グループホームでの支援に携わってきた職員ら20人弱が参加し、部屋の形状や家具の配置など、最適な生活環境を提供するためさまざまな話し合いを重ねてきた。1か所目の開設以来、30年余りにわたって培ってきた支援のノウハウを設計段階から注ぎ込んだのだ。

グループホーム「オルハナ」新設への思いを語る市川理事長=名張市美旗中村で

「人々の意識変わる」

 2014年に日本が批准した国連の障害者権利条約は、障害のある人の人権や自由を守ることを定めた国際条約で、世界の障害者政策の羅針盤となっている。障害者が入所施設から地域での生活に移る「地域移行」は、条約でも示されている世界的な潮流だ。ところが22年9月、国連の障害者権利委員会による初の対日審査が行われ、日本で地域移行が滞っている現状が課題として指摘された。

 同法人の市川知惠子理事長(69)は「たくさんの人が一緒に暮らす入所施設では、本人が本当に望む生活が難しい場合がある。名張育成会では1991年から多くのグループホームを設置してきたが、地域で生活したいと思う人の受け皿として、やはり必要だ」と改めて強調する。
 同法人が伊賀地域でグループホームを設置してきた歩みの中で、周辺住民から反対があった例も少なくなく、「火事でも出されたら大変だ」「周囲の不動産価値が下がるのでは」といった声も上がった。中でも特に市川理事長がショックを受けたのは「障害のある人は専門の施設の中で暮らしたらよいではないか」という差別的な声だったという。

 大反対に遭い設置が実現しなかった場所もあった一方で、同法人が何度も説明会を開いて住民と話し合いを重ねた結果、障害者の地域移行に対する理解が次第に深まり、容認に動いたケースも多くあった。市川理事長は「地域への啓発活動も私たちの仕事。障害のある人たちが、どこで誰と住むかを選べる社会にしていかなければならない。グループホームの設置は地域の人々の意識が変わることにもつながり、受け皿を作る歩みを止めてはいけない」と語った。

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