【昨年6月に名張市の観光名所・香落渓で目撃された熊の後ろ姿(市提供映像より)】

 紀伊半島に生息しているツキノワグマ。これまで出没が確認されていなかった三重県名張市内でも、昨年6月に目撃(同市青蓮寺の香落渓)、12月に足跡の発見(赤目町一ノ井)があり、住民を不安にさせた。ツキノワグマについて、環境省や県の資料などを基にまとめた。

昨年12月に名張市赤目町一ノ井で見つかったツキノワグマの足跡、左上は発見者の飼い犬(同)

どこから来た?

 ツキノワグマは全身の毛が黒く、胸に白い三日月模様があることが名前の由来とされている。肉食獣だが、ドングリや木の若芽など植物中心の雑食性で、日本では本州と四国に分布する。鼻は犬並みに優れ、耳は高音に敏感で小さな音でも聞き分ける。時速40キロ以上で走ることができ、鋭い爪を立てて木登りもできる。背を向けて走るものがいると、反射的に追いかける習性がある。

 紀伊半島の個体群は本州の他の地域の個体群からは孤立していて、1984年の調査で、生息数は紀伊半島全体で約180頭と推定されているが、生息エリアは近年、拡大傾向にある。

 本州中部や東北の個体は体重70から120キロ程度だが、紀伊半島の個体は成獣でも体重30から65キロ程度と小型で、比較的温暖な環境から冬も冬眠せず活動する個体もいるという。

 同省は「絶滅の恐れのある地域個体群(LP)」、県は近い将来絶滅の危険性が高い「絶滅危惧ⅠB類」に指定している。

紀伊半島のツキノワグマの分布エリアと伊賀地域の位置関係(環境省資料を基に作成)

遭遇時の対処法

 熊に遭遇した時、私たちはどうしたら良いのか。同省のパンフレットなどでは、実際に遭遇した時の対処法について次のように紹介している。

▼距離が離れていた場合(熊が人に気付いていない)=ゆっくりと静かに立ち去る
▼距離が近い場合=〈50メートル程度〉両腕を振り存在を熊に知らせ、目を離さずにゆっくりと静かに後退する。〈20メートル程度〉熊がパニックになり突発的な攻撃をする可能性があるため、刺激しない。走ったり大声を出したりせず、熊から目を離さずにゆっくりと静かに後退する。いずれも森林内であれば、万が一の突進に備えて熊との間に障害物がくるようにする。
▼熊が威嚇突進してきた場合=途中で止まり後退することが多い。落ち着いて熊との間に障害物がくるようにゆっくりと後退する。
▼熊が本当に突進してきた場合=クマ撃退スプレー(唐辛子成分を発射するスプレー)があれば使用するが、なければ致命傷を避けるため地面に伏せ、両手で首の後ろをガードし、頭や腹、首を守る防御姿勢をとる。ツキノワグマの場合は、一撃を与えた後にすぐ逃走する場合が多いとされている。

熊に襲われた際に有効とされている防御姿勢。腹ばいに伏せ、両手で首を守る

親子熊は特に注意

 母熊は子熊を守ろうと攻撃的な行動をとることが多く、一層注意が必要。子熊が単独でいる場合も、すぐ近くに母熊がいる可能性が高いため、近付かず速やかにその場から離れる。

 同省鳥獣保護管理室の担当者は「至近距離の遭遇で一番駄目な行為は、背を向けて逃げ出すこと。死んだふりが有効かどうかは何とも言えないが、攻撃を受けそうな状況では、腕で首を抑えて伏せる防御姿勢をとることを勧めている」と話す。それ以前に「山に入る時は熊鈴やラジオなどを携帯し、熊と出会わないことが最も重要だ」としている。

熊を寄せ付けない

 熊の目撃や足跡の発見を受け、名張市は屋外に生ごみや野菜を置いたり、未収穫の果実などがあったりすると熊が寄ってくるとして、周辺住民に注意を呼び掛けている。

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