【講話で使う手作りのパネルを前に思いを語る藪根さん=名張署庁舎で】

 三重県警名張署の名張駅前交番(名張市平尾)に勤務する藪根知利さん(27)は、中学校の教員から転身した新人警察官だ。同交番の植木顕徳所長(36)の指導のもと、子どもたちに寄り添った教員時代のまなざしそのままに、高齢者向けの講話で交通事故や特殊詐欺被害の防止を啓発している。

 熊野市出身で、大学では法律を学んだ。卒業後は中学社会科の常勤講師として地元と鈴鹿市の学校で計3年間、子どもたちに勉強を教えた。

 生まれ育った三重県に貢献したいとの思いから、警察の仕事にも元々興味を持っていたという藪根さん。実際に目指したのは、同じ教員だった高校の先輩が警察官に転職した話を聞いたのがきっかけだった。

 そんなころ、地元で弟の親友がバイク事故で命を落とした。「弟がすごく悲しみ、落ち込んでいて、その様子を見るのがつらかった。事故で亡くなったら、残された家族や友人も悲しむ。そんな人を減らせたら」

 藪根さんは、警察の仕事への思いを一層強くし、採用が決まった後の離任式では「先生、何でやめるの」と不思議がる子どもたちに「警察官にチャレンジします。街で見かけたら声を掛けて」とあいさつして中学校を後にした。

交通事故や特殊詐欺被害防止啓発に活躍

 警察学校で半年間学び、2021年10月に同交番に配属。交通取り締まりなどに取り組むなか、22年6月からは地域からの依頼を受け、植木所長と一緒に管轄区域の高齢者の集会で演劇形式の啓発活動を行っている。

 交通事故防止の講話では、自動車が1秒間に進む距離やブレーキをかけてから停止するまでの距離を速度ごとに棒グラフを使って示したり、その距離を藪根さんが実際に歩いてみせたりして説明。特殊詐欺被害防止の啓発では、ATMの画面を模したイラストを示したり、利用されることの多いプリペイドカードの実物や拡大図を例示したりして、実際の手口を基に注意を呼び掛ける。どちらも学校の授業さながら「視覚教材」を活用し、わかりやすく伝えることを目指しており、道具は2人で意見を交わしながら手作りしている。

 植木所長は「コミュニケーション能力が高く、人前に出て上手に話すことができる。そんな新人はなかなかいない」と更なる活躍に期待する。藪根さんは「聞いて頂く方々が事故に遭わないよう、詐欺にだまされないよう、その一心で取り組んでいる。『気をつけよう』という気持ちが、人から人へと広がっていけば」と思いを語った。

2022年9月10日付827号1面から

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