【倶留尊山のふもとに建つ農業研修棟の前で、村上さん(中央)とスタッフの皆さん】

耕作放棄地を開墾

 垂直にそそり立つ倶留尊山のふもとに広がる三重県津市美杉町太郎生の池の平高原。2013年にこの高原に移住し、雑木や草が生い茂る耕作放棄地を開墾し、高原野菜や果樹を無農薬で栽培しながら自然農園を運営しているのが村上真平さん(63)だ。

 福島県出身。1982年から20年間、民間海外協力団体を通してインドやバングラデシュ、タイなどで持続可能な農業と農村開発活動に関わった。

 帰国した2002年から、考えを実践するため、福島県飯館村の約6万平方メートルの土地で自然農園を運営。若い農業研修生を受け入れ、農家民宿、レストランの開業など、6次産業のモデルとして同県から表彰されるなど順調だった。

 ところが11年3月11日、東日本大震災が発生。約40キロ先にある福島第1原発の事故を予見し、その日の深夜には妹が住む山形県米沢市へ避難した。16日には、自身が卒業した伊賀市別府の愛農学園高校を頼って20人ほどの被災者とともに1か月間受け入れてもらった。

 「福島で10年にわたって築き上げた農園での生活だったが、原発事故で全てが吹っ飛んだ。学びの場としての自然農園建設の夢を再び実現させるための最高の舞台を、この池の平高原に見出すことができ、開墾を始めてから間もなく10年になる」と話す。

 現在、スタッフと研修生の計4人で、約1万6000平方メートルの農地にトウモロコシ、ナス、ブロッコリーなどの季節の野菜を約50種類、イチジク、梅、スモモ、ブルーベリーなどの果樹、更に5000平方メートルの水田に稲を無農薬で栽培している。農園の周囲には、イノシシや猿などの侵入を防ぐネットを張り巡らせた。

 「池の平自然農園」と名付けた農園を見下ろす高台には、床面積230平方メートルのテラス付き2階建ての農業研修棟がある。ここには厨房設備の他、研修用の部屋もあり、将来は宿泊施設を充実させ、「人間が地球で平和で永続的に生きるためのマナーと技の学び舎」を計画している。

 「今、人は『経済』のために自然を壊し汚染し、弱者から奪うということを当たり前のようにし、人の命を支える農業は、農薬や化学肥料に頼りすぎている。自然を壊さず、無農薬で多様な食物をバランスよく作ることで、循環型で永続的な農を実践し平和な社会の礎を築きたい」と持論を語る村上さん。

 現在、妻と4人の子どもたちは、京都府京田辺市に居住。週末に通い、子どもたちも休日にはたびたび美杉に遊びに来るという。「ここを、若い人が自然農法と生き方を学べる拠点にするのが夢」と笑顔で話した。

2022年8月27日付826号15面から

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