【全国大会に出場した貫代さん】

師や家族の支え 全国大会に出場

 7月中旬に大阪であった吟道関心流「全国選抜資格別競吟大会」に三重県代表として出場した、名張市つつじが丘北の貫代菊枝さん(82)。60歳から始め、月3回の練習はほとんど休まず没頭してきたが、3年前に夫の幸男さんが「余命3か月」を宣告され、2年前に他界。その看病と悲しみから、2年ほどは離れざるを得なかったが、再び大好きな詩吟に向かわせたのは、師と慕う指導者と家族の応援だった。

 現在は関心流名張玉紫会に所属し、講師の相馬芳玉さん(82)の指導で同市夏見の「歌謡スタジオききょう」を会場に練習している。

 60歳の時に出席した高校の同窓会で、カラオケで声を張り上げる旧友の姿に刺激を受け、カラオケを習おうと、すぐに同スタジオをのぞいたところ、相馬さんから「カラオケは誰でも歌える。詩吟を教えてあげる」と言われた。教本を見せてもらうと、漢詩の持つ魅力に引き込まれ、「主人に内緒で始めた」と笑う。

 年々段位も上がり、10年前には「奥伝の部」の独吟で全国4位に、5人で吟じる「合吟」では全国優勝を果たすほど向上してきた。そんな中、夫の看病に専念せざるを得なくなった時には「もう詩吟はできない。教室を辞める」と申し出たという。

 しかし相馬さんからは「今は詩吟のことは考えなくていい。できるようになったらいつでも帰ってきて」と優しい言葉を掛けられた。「先生から『後ろを向いたらダメ、前を向いて歩かなあかん』と言われたことがすごく励みになった」と振り返る。

 夫の死後、落胆していた貫代さんを、桑名市に住む長男夫婦も心配していた。寂しさを紛らわすためにも、好きな詩吟を続けるよう説得したといい、全国大会の会場で母の奮闘ぶりを見守った。

 「また教室に戻りたいと連絡があった時は、涙が出るほどうれしかった」と相馬さん。2年のブランクを取り戻すため一生懸命練習し、わずか1年後の4月には県大会で優勝。「全国大会に出場できるようになって驚いている」そうだ。

 全国大会は「奥伝・錬師・教師の部」に出場。「気負わず、普段通りに」と平常心で臨み、上位入賞は逃したが、力は出し切れた。「詩吟は心の支え。家の近くを歩きながら、人の居ないところで立ち止まってうたっている。支えに感謝しながら、これからも元気に続けていきたい」と話していた。

2022年7月30日付824号11面から

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