【自作した真空管アンプを操作する鎌田さん=宇陀市室生三本松で】

 「やっぱり真空管は音の深みが全然違う」。奈良県宇陀市室生三本松で電化製品の販売・修理や電気工事の店を営む鎌田慧さん(90)は、昨秋から半年ほどかけ、仕事用に保管していた真空管を使ってアンプを自作した。アンプやスピーカーを置くために改装した店先の4畳半ほどのスペースで、時間を見つけてはお気に入りのレコードやCDをかけている。

修理する若い頃の鎌田さん(提供)

 家業は農林業や履物製造だったが、鎌田少年が夢中になったのはラジオだった。ラジオを分解して組み立てたり、近所の人から頼まれて修理をしたりし、部品が無ければ材料を探して自作した。ラジオ番組や専門誌で技術を身に着け、「ラジオが完成し、音が鳴った時の喜びは忘れられない」。今では機会も少なくなった「自分で一から作り上げる楽しみ」を日々味わいながら育ってきた。

 1956年に現在地で「かまだ商店」を開業した当初は履物販売が中心で、2年後に「カマダ無線電機商会」と改称。好きが高じた電化製品の販売修理などを生業としたが、しばらくの間はテレビ普及のためにアンテナ設置などで多忙を極める日々。部品作りや趣味のために使っていた修理室も物置と化していった。

 70、80代で入院や大きな手術も経験したが、今も可能な限り工事の仕事は継続。そんな中でも、何百何千という道具の山に埋もれつつあった真空管やコンデンサ(蓄電器)、トランス(変圧器)などは鎌田さんにとって「宝の山」に違いなかった。不要になった商品展示コーナーを改装する機会に合わせ、一念発起して念願の真空管アンプを作ることにした。

 自作の回路図を基に真空管などを配置し、アルミ板のシャシー以外の部品は手持ちの材料でまかなった。レコードプレーヤーは昭和50年代に製造されたビクター製のダイレクトドライブで、低音用の大型スピーカーは部品の劣化で30年ほど前から使っていなかったが、鎌田さんの修理でよみがえった。

 ピアノ曲やジャズ、歌謡曲など、楽しむジャンルは問わない。既に取り掛かっている2号機は「シャシーも自作する予定なので、知人に金属の加工の仕方を教わっている」と苦笑い。コロナ禍ではあるが、「落ち着いたら、話題の合う人たちが集まってくれる場所になればうれしい」と穏やかに語っていた。

2022年6月25日付822号18面から

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