伊賀市教育委員会は3月18日、文化財保護審議会から答申があった同市阿保の「大村神社梵鐘」1件を市指定有形文化財(工芸品)とすることを決定し、発表した。指定理由として制作した年や地元での発願、施工、住人の名前が確認でき、同神社の氏子圏と村の信仰の一端をうかがい知ることができる貴重な1点だとしている。
文化財課によると、「虫食鐘」の名で知られる同神社の梵鐘は青銅製で、高さ155センチ、径91センチ、底部分の厚さ9・5センチから9・8センチ、内径71・7センチ。金属の変質によるものとみられる傷みが全面に及んでいる。
刻まれた銘文には造られたのが江戸初期の明暦2(1656)年秋で、依那具村(現伊賀市依那具)の藤原勘右衛門という職人が鋳造した。発注は同神社の宮寺だった禅定寺僧侶の覚祐で、施主は同神社神主の秋長康正を始め羽根村や柏尾村、別府村など周辺7村の庄屋や年寄らの氏子だった。禅定寺は明治初めの神仏分離で廃寺となり、同神社に引き継がれたとされる。
同課の説明では市内の社寺に残る梵鐘の文化財指定は6件目。勝因寺(同市山出)の1612年、菅原神社(同上野東町)の1627年に次いで3番目に古いという。市の指定文化財は今回で288件(工芸品は28件)になった。
「虫食鐘」の伝承は、大和国葛城の豪家の娘が愛蔵していた鏡を鋳込んだところ、その「たたり」で死んだ娘の亡霊により丸い突起物の「鐘乳」が全部落ちたといわれ、鐘を食う虫の正体は娘による「うらみの一念」との伝説があり、日本三奇鐘の一つといわれている。
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