【完成した石庭の手入れをする家里さん=名張市西田原で】

 世界遺産・龍安寺(京都市)にある石庭を、三重県名張市西田原の団体職員、家里英夫さん(74)が自宅の庭に再現した。禅の世界を体現した石庭の傍ら、瞑想する時間を大切に過ごしている。

龍安寺の石庭(龍安寺提供)

 同寺は室町中期の1450年に創建された臨済宗の寺院で、石庭は、広さ約250平方メートルの白砂の庭に大小15の石が島のように配された「枯山水」の庭園。遠近法で空間が広がるよう計算されているが、作者不明、表現意図も謎とされている。石の配置から「虎の子渡しの庭」や「七五三の庭」の別称もあり、1975年に英国のエリザベス女王が訪問してからは「ロック・ガーデン」として世界的にも知られるようになった。

 家里さんは20年ほど前、観光で初めて同寺に足を運び、謎を秘めた石庭に心を奪われた。以来、年に3回ほど訪れては1、2時間眺め、考え事をしたり、自分自身を見つめ直したりしていたという。

 やがて、「石庭を毎日眺めたい」との思いから、木々が茂る自宅の庭の半分を造り直そうと決意。図面や研究論文などを集めて構造を調べ、昨春、工事に着手した。コロナ禍の移動自粛で、京都に足を運びにくくなる中、約半年の工期を経て“名張の石庭”が完成した。

「吾唯足知(われ、ただ足るを知る)」の言葉が刻まれた手水鉢

 15個の石は元の庭石を再利用したが、大きさや形、位置にこだわった。同寺にある有名な手水鉢「知足の蹲踞」も、「現代の名工」に選ばれた地元の石工に依頼し、一回り大きく再現。禅の精神を示す「吾唯足知(われ、ただ足るを知る)」の言葉が刻まれており、庭の隅に配置した。

 広々と生まれ変わった庭は、愛犬のパグ「はなちゃん」にとっては絶好の遊び場に。水の流れを表す白砂の砂紋には犬の足跡が付くため、家里さんが自作のかき棒を使って定期的に整えているという。

 今では石庭を毎日のように眺めているといい、「この歳になり、ゆっくりと考え事をする時間がとても大切と感じるようになった。豊かな時間が増え、石庭を造って良かった」と笑顔を見せた。

2021年10月23日付806号3面から

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