【まとめた「日本真空管大全」を手に真空管への思いを語る橋本さん=名張市下比奈知で】

HP公開20年機に「大全」発刊

 通信機器などに用いられた真空管を日本製にこだわって約4000本収集し、ホームページで情報を発信してきた三重県名張市下比奈知の橋本明洋さん(64)。今年11月で公開20年を迎えるのを機に、コレクションを国内ブランドごとに整理し、「日本真空管大全」として1冊の本にまとめた。

 真空管は電球の技術を応用したもので、ガラスなどの容器内を真空にして電極を封入し、電流の制御や増幅などを行う。ラジオやテレビにも用いられたが、1970年代になると半導体に置き換わり、メーカーは相次いで生産を終了した。

 橋本さん宅の離れには、長さ約1センチから約1メートルまで大小の真空管がずらりと並ぶ一室がある。大正末期に無線電信に使われたものや、戦時中に零式艦上戦闘機(ゼロ戦)で使われた軍用品などさまざまだ。

 橋本さんが小学生のころ、自宅には母親の嫁入り道具のラジオがあった。機械への興味を募らせ、分解してみると、長さ10センチほどの真空管が出てきた。「奇麗で何だかかっこ良い」と強い関心を持ち、戦車のプラモデルに付けて遊んだという。

橋本さんの真空管ラジオの内部=同

 学生時代には、世間で真空管が役目を終えてゆくなか、レコードプレーヤーなどに接続して音を出す真空管アンプの自作が趣味になった。部屋を暗くし、通電している真空管を見ると、オレンジ色に光を放ち、幻想的な雰囲気が醸し出される。光を眺めながら、クラシック音楽を聴くのが楽しみだったという。

 30代後半になると仕事や家庭で忙しくなり、アンプ作りから遠ざかっていた。真空管の世界から卒業しようと、雑誌内の売買コーナーを利用して所有していた外国製真空管を手放していった。

 最後に残った有名ブランドの4本を売りに出した時、ある読者から「その4本と私の200本を交換してほしい」と話を持ち掛けられた。

 「4本と200本なら悪い話ではないかも」と心が揺れ、思わず承諾。宅配便で届いた200本を確認した橋本さんは「どれも無名な国産真空管ばかりだが、どこの会社が作ったんだろう」と興味が掻き立てられたという。

通電しオレンジやグリーンの光を放つ真空管=同

 国産の真空管について調べ始めた橋本さんは、勢いのまま収集を進めた。1000本を超えた40代半ば、愛好者仲間から「コレクションは見て楽しむだけではなく、情報を発信して広く役立てるべき」と諭され、ホームページ「日本製真空管歴品館」(http://rekihinkan.fc2web.com/)を開設。所有する国産真空管を次々に、写真と解説文を添えて紹介していった。

 更に収集を続ける中、「国産真空管は日本の産業発展を支えた遺産。ホームページだけではなく、記録を後世に残したい」と、書籍化を考えるようになった。4年前に定年を迎えてから、編集作業は本格化した。

 実物を数多く所有していても、製造元のほとんどは既に廃業。解説文を書くための資料集めは、困難を極めた。図書館などをまわり、雑誌に掲載された真空管の広告なども収集。構想10年を経て、ついに国産400ブランドの製品を紹介する本を完成させた。

 本では、国産真空管の歴史の他、伊賀市出身で数々の製品開発を手掛けた技術者・前田久雄氏の功績なども紹介している。

 橋本さんは「自分の趣味の集大成と思って仕上げたつもりだが、まだまだ書き足りない。第2弾への気持ちが既に芽生えてしまった」とますます意欲を燃やしている。

 本はA4版カラー258ページ。購入や問い合わせは同ホームページから。

2021年10月9日付805号1面から

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