【絵手紙部門の特選・松本美代子さん(伊賀市)の作品(提供)】

 伊賀市と芭蕉翁顕彰会はこのほど、「第75回芭蕉翁献詠俳句」の特選作品73点などを発表した。特選作品の応募者は例年、10月12日に開かれる、同市出身の俳聖・松尾芭蕉の遺徳をしのぶ「芭蕉祭」会場で表彰されるが、今年は感染拡大防止のため郵送での贈呈となる。

 同顕彰会によると、応募数は、一般の部9854句、テーマの部2481句、児童生徒の部2万3123句、英語の部1366句、連句128巻、絵手紙822点の計3万7774作品(ポスター原画除く)。英語の部には日本を含む40か国から、昨年(1384句)とほぼ同数の応募があり、国別の応募数上位はインド230句、米国164句、日本140句となっている。

 選者講評によると、昨年は新型コロナウイルスの影響で「自粛」「オンライン」「画面越し」などの言葉が並び、詩情や具体性が少ない傾向もあったが、今年は“コロナ慣れ”と言えるような、禍中ならではの作品や、東京オリンピック・パラリンピックを題材にしたものも多かったという。

 伊賀市内の小学校19校からは、児童4035人から1万4003句の応募があった。学校全体で意欲的に創作活動に取り組んだ「三重県知事賞」には、伊賀市立上野西小、愛知県立安城高が選ばれた。

 また、例年芭蕉祭に合わせて開催される記念講演会は2022年1月29日に延期、全国俳句大会は中止となる。

 各部門の特選句は次の通り(敬称略)。

◇一般の部◇

【稲畑汀子選】
明日と云ふ日を疑はぬ今日の汗(神戸市、池田雅かず)
どの道を行くも花散る日和かな(伊賀市、福山秀子)
【井上弘美選】
水鶏笛吹いて翁の国に入る(東京都江戸川区、坂本昭子)
月光をあつめて蒼き宗祇水(東京都台東区、市川浩実)
【茨木和生選】
敗戦日引き揚げてふ語な忘れそ(大阪府豊中市、金岡道子)
熊鍋をもてなすまたぎ料理かな(兵庫県宝塚市、廣田祝世)
【宇多喜代子選】
青蚊帳をたたむ大波小波かな(富山県上市町、米井孝子)
母の忌や角美しき水羊羹(伊賀市、桑原智代美)
【小川軽舟選】
牛小屋の戸口風鈴鳴つてをり(伊賀市、森永康子)
名月が大手を振つて湖渡る(神戸市、江藤隆刀庵)
【小澤實選】
火蛾のせて単線電車折り返す(伊賀市、土井陽代)
和洋中そろふ食堂つばくらめ(埼玉県川越市、渡邉隆)
【櫂未知子選】
ひかがみに射す日の温み種浸し(東京都板橋区、笠原みわ子)
寒紅や身の内に聴くささら川(東京都世田谷区、田中冬生)
【黒田杏子選】
誰も来ぬ何処へも行かぬ桜時(伊賀市、中森三津子)
万緑や忍者電車の軋み来る(伊賀市、山下久美)
【坂口緑志選】
俳聖殿楓の翼果くれなゐに(名張市、岡森競一)
飛魚とぶや隠岐西郷の島渡船(鳥取県境港市、阿部はる)
【塩田薮柑子選】
麦の秋合併拒む村の寂(兵庫県姫路市、山田青果)
離着陸無き空港に秋の蝶(伊賀市、安本毬花)
【西村和子選】
三人を育てし腕サンドレス(山口県宇部市、永田芳子)
田草取る小さな母の大きな手(岐阜県御嵩町、伊佐治秀一)
【長谷川櫂選】
滴つて一木一草みな裸体(京都市、辻久々)
故郷は闇深き村蛍舞ふ(岐阜県多治見市、中村了仙)
【星野椿選】
駈けて来る遍路を待ちて船を出す(名古屋市、光田道子)
釣人の竿にはねられ夕とんぼ(四日市市、伊藤和子)
【正木ゆう子選】
鷹渡る海の底には戦闘機(名古屋市、水岩瞳)
稲の花雲の影きてふるへたり(奈良県香芝市、中村翠孝)
【三村純也選】
鱧の皮男の粋は四十から(神戸市、宮本隆三)
伊賀焼の火襷を愛で新走(神戸市、山内茉莉)
【宮坂静生選】
大茅の輪海より雨の走り来る(神奈川県大磯町、川村五子)
大空は時間の器揚花火(千葉県市川市、島田葉月)
【宮田正和選】
藍甕に藍の息づく走り梅雨(御浜町、福田優子)
山羊の仔の汚れて飼はる梅は実に(伊賀市、中西澄子)

◇テーマの部◇

【片山由美子選】
空つぽの水筒満たす岩清水(東京都杉並区、草野准子)
うねりつつ夜空を抱く櫻かな(奈良県桜井市、中博司)

◇児童生徒の部◇

【保育所(園)・幼稚園、小学1~3年=岡島千秋・永井みよ・西村八洲子・松村咲子・山村勝子共選】

ほっぺたはまっしろのままなつやすみ(伊賀市、ひかり保育園、中市治影)
じゃがいもをぼくは9こもてでほった(同、白鳳幼稚園、森木駿)
おとうとともうふのトトロにとびこんだ(津市、三重大学教育学部附属幼稚園、山本周生)
すかーとのたけみじかくしみずあそび(伊賀市立上野東小1年、小林美結)
ゆずろかなゆずるのやだなひかげみち(同上野西小1年、花谷奏空)
じいちゃんのきらりとひかるさんぐらす(同三訪小1年、野上優衣)
夕やけが白いカーテンそめ上げた(同上野北小2年、福谷美里)
はねすけてせみのあかちゃんうすみどり(同中瀬小2年、池田なな)
ぬけたはをやねになげたらなつのくも(同友生小2年、猪田彩月)
雷だ兄姉ぼくの目線合う(同依那古小3年、西岡劉歩)
夏ぎくが六地ぞうの前かざってる(同柘植小3年、髙橋雫)
糸とんぼ風にきえたよ草の上(同壬生野小3年、坂本燈麻)

【小学4~6年=坂石佳音・島井節・服部登紀子・東構東子・福山良子】

せい火まね手持ち花火に火をともす(同上野東小4年、瀧山莉央)
ハンモック雲を追いかけゆらゆらと(同上野西小4年、西口綾音)
暑い夏黒いせんろがゆがんでる(大阪府、泉佐野市立末広小4年、村本琉莉維)
さわやかなにおい残して実梅落ち(伊賀市立上野東小5年、野村成吾)
音奏で体を廻る炭酸水(同久米小5年、松井結奏)
せん車する小さなにじの中にいる(同三訪小5年、出口来希)
虫干しの三代並ぶ母子手帳(同上野東小6年、西山紗菜)
負け試合帰りの車窓に虹二重(同上野西小6年、澤利奈)
梅雨深し狛犬の目を伝う雨(同柘植小6年、大井蓮翔)

【中学・高校=佐々木経子・下村哲朗・土井陽代・中西紀歩・福森志津子】

夏休み希望に湧いた五輪の輪(同緑ヶ丘中1年、松井遥音)
梅雨晴れの風がシーツを泳がせる(同緑ヶ丘中1年、西岡咲波)
リモートで祖父母の笑顔夏休み(同霊峰中1年、奥澤花帆)
七輪でさんまをかこみ食べる夜(同緑ヶ丘中2年、奥谷真人)
時忘れにらむ数式アイス溶け(同青山中2年、勝本真央)
春一番近江の海に吹き付ける(滋賀県、MIHO美学院中等教育学校2年、志村俊祐)
手紙には勿忘草の栞あり(桑名市立多度中3年、守屋琴葉)
群青ののぼりゆく空いわし雲(桑名市立長島中3年、松田美空)
汗が知るチームワークという力(東京都、お茶の水女子大学附属中3年、土谷吏俐子)
栞紐のゆびに絡んでいて夜長(高田高2年、小池真凛)
子どもの日背伸びして撮る家族写真(愛知県立安城高2年、岡本恵汰)
漱石も太宰も積んで明け易し(ヒューマンキャンパス高3年、田場雄羽太)

◇英語俳句の部◇【河原地英武選・訳】

sharing a futon
in temporary shelter
snow-covered windows
避難所で分け合ふ布団窓に雪
(David McMurray,Japan)

lockdown
I watch the camellias
bloom and die
ロックダウン開きし椿枯るるまで
(Madhuri Pillai,Australia)

◇連句の部◇【宮川尚子・小池正博・村松定史・西田青沙共選】 

半歌仙『蝉の声』の巻(石川県、本多の森連句会)
瀬戸瑞枝 捌

やがて死ぬけしきは見えず蝉の声  芭蕉翁
 園児の遊ぶひまはりの丘      瀬戸 瑞枝
休日は名画名優楽しみて       密田 妖子
煙のこして過ぎるSL        高見よ志子
縁先に皆の出てくる雨後の月     池田みち子
 両手に受ける零余子ころころ      よ志子
茶屋街のつづみ間遠に西鶴忌     村戸 弥生
 きつぷの良さが彼の持ち味       みち子
照れながら三々九度の盃をあげ       妖子
 薬頼りにのぼるタラップ         瑞枝
国境を越える大河の滔々と         妖子
 人新世へ知恵を集めて          瑞枝
ビル林立冬満月の渡りゆく        みち子
地蔵に結ぶ赫いマフラー          瑞枝
原発に過疎救はるといふことも      よ志子
 崖つぷちより翔ける海鳥         弥生
スマッシュを決めしコートは花の中    みち子
 遠く近くに畦塗の影           妖子
  
     令和三年六月十三日 満尾   密田宅

◇絵手紙の部◇

伊賀市、松本美代子

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