【(左写真)開花時の「不動寺のヤマザクラ」(広瀬信三さん提供、2019年4月撮影)、(右写真)クローン苗木を受け取る石島住職(左)=名張市長瀬で】

 三重県名張市長瀬の不動寺にある樹齢100年以上と推定される「不動寺のヤマザクラ」。近年は樹勢が衰え、枯損も懸念されるが、同寺が専門機関に依頼した増殖が成功し、遺伝子を受け継ぐクローン苗木5本が2月9日、里帰りした。獣害防止柵を設置した境内一角などに檀家らの手で植樹され、関係者が後継樹の健やかな成長を願った。

親木となった「不動寺のヤマザクラ」=同

 親木となった「不動寺のヤマザクラ」は本堂南側の墓地内にあり、樹高約8メートル、幹周り約2メートル。例年4月中旬から八重咲きでやや枝垂れた桜の花が楽しめ、地域住民に親しまれてきたが、近年は樹勢の衰えが目立ち、一部の枝が枯れるなどしていた。

 同寺の石島孝文住職(68)は「この木をなんとか後世に残したい」と考え、2018年夏に同寺境内のカヤの巨樹の調査に訪れた樹木医の広瀬信三さん(73)に相談。森林総合研究所林木育種センターの後継樹増殖事業「林木遺伝子銀行110番」を紹介してもらった。

 20年2月、同センター関西育種場(岡山県勝央町)の職員が親木から枝を約30本採取。同育種場でヤマザクラとオオシマザクラの2品種の台木計20本に特殊な技術で接ぎ木したところ、うち18本が成功した。高さ1メートルほどまで育て、屋外での生育が見込めるようになった苗木5本がこの日、同寺に戻ってきた。

 石島住職は「寺のヤマザクラが長生きしてくれるか心配していたが、こうして後継樹を育ててくださり、大変うれしい」、一連の増殖を担当した同育種場の山本あゆみさんは「親木の樹勢は衰えていたが、採取した枝の状態は良かった。順調に育ってほしい」と話していた。花が咲くようになるまでは、数年かかる見込みだという。

 同育種場によると、同事業での後継樹増殖は、県内で6例目。伊賀地域では、05年の「花垣の八重桜」(伊賀市予野)、12年の「延寿院の枝垂れ桜」(名張市赤目町長坂)に次いで3例目という。

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