【市に寄贈された「一人二役」=名張市桜ケ丘で】

著者すら手にできず!?

 探偵小説家、江戸川乱歩(本名・平井太郎、1894‐1965)の著書で、発行当時の現物が希少な書籍「一人二役」が、京都府京都市の自営業、渡辺健人さん(36)から、乱歩生誕地の三重県名張市に寄贈された。市立図書館(桜ケ丘)の乱歩コーナーに収蔵される。

江戸川乱歩(平井隆太郎氏提供)

 この書籍は1948年5月15日、「手帖文庫」として地平社から発行された。B7判62ページで、25年に雑誌で発表された「一人二役」と「黒手組」の小説2作品が収録されている。

 当時、出版元から献本が無かったとする乱歩自身の記録があり、多くの関連資料が残る東京都豊島区の旧江戸川乱歩邸にも収蔵されておらず、国立国会図書館にも納本されていなかった。名張市立図書館が2003年に出した「江戸川乱歩著書目録」では、本の現物が確認できなかったことから、ページ数や外装などを「不明」と記載していた。

 京都市でアンティーク着物専門店「戻橋」を営む渡辺さんは1月上旬、市内の旧家で蔵の中身一式の買い取りを行った際、たんすの中からこの書籍を発見。もともと乱歩作品が好きな渡辺さんは、店のツイッターで写真とともに「これは貴重な本なのでは」と紹介した。

 名張市立図書館の元嘱託職員で、著書目録を編集した同市蔵持町原出の中相作さん(67)が渡辺さんの投稿に目を止め、市に情報提供。市立図書館が同店に連絡を取り、渡辺さんの好意で寄贈が実現した。

 中さんは「おそらく所蔵する公共図書館はなく、著者さえ手にしたことがない幻の一冊。名張にご寄贈頂きありがたい」と話す。渡辺さんは「乱歩が生まれた名張で大切に保管して頂けることになり、とてもうれしい」と語った。市教委は渡辺さんに感謝状を贈呈した。

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